カスタマー・アドボカシー(顧客による支援)の第一人者であるビル・リーは、顧客は購入以外にもさまざまな方法で企業に価値を提供してくれることを説く。今回は、「自社のプラットフォーム化」によって顧客の創造力を解放し、イノベーションに寄与してもらう事例を紹介する。顧客とは外部ディベロッパーからエンドユーザーまでのすべてが含まれる。


 顧客はイノベーションのプロセスにあまり加わるべきではない、あるいは加わることはできない――この考え方は、クリエイティビティに対する障壁のひとつだ。しかし、企業はこの障壁を急速に打破しつつある。多数の企業が自社の事業のあり方を再考し、社内で創造した製品やサービスの提供者としてだけではなく、顧客が経験や価値を創造できる「プラットフォーム」として自社を捉えるようなっている。こうした新しい見方や運営の仕方によって企業は、顧客が本当に欲しいものを、欲しい時に、求められる場所や方法で提供できるようになる、という理想に近づいている。ソーシャルメディアやインターネットは当然ながら、こうした状況を促進するための多くのツールを急速につくり出している。では、企業がこの理想に向けて動き出すための4つのステップを以下で紹介しよう。

1.顧客体験を、顧客自身に創造させる

 アップルはスティーブ・ジョブズの意向もあり、顧客や外部のディベロッパーによって自社のプラットフォームを変えられるのを嫌ったことで有名だ。そのアップルでさえも、最後には現実にあらがえなかった。同社は〈iPod〉や〈iPad〉のユーザーにとって重要な顧客ニーズを、満たすどころか理解するためのリソースさえ持っていなかった。しかし社外には、顧客自身も含めて、ニーズに合わせて製品やサービスを喜んで改良しようという人々が大勢いたのだ。そこでアップルはApp Store(アップストア)をつくり(現在では数十万ものアプリを提供している)、売上げの30%をそこで稼ぐようになった。顧客も〈iPhone〉や〈iPad〉のプラットフォームで、どんどん豊かな体験ができるようになっている。

 製品を顧客のニーズに合うよう改良する能力は、テクノロジー企業だけが持つわけではない。中程度の技術の企業、ローテク企業、そして非技術系企業も、同様のことを長年行っている。その際には製品の機能拡張やカスタマイズを可能にする、ツールキットやモジュラー製品などを利用すればよい。格安家具メーカーのイケアは、購入した家具の組み立てを顧客自身に行わせ、その過程で家具をカスタマイズできるようにしている。このような仕組みを通して、一部の顧客はイケアと特に強い関係(http://www.ikeafans.com/など)を築くという調査結果がある。なかには、同社を称賛する歌を書いたり、ボランティアとして店舗に住み込んだりする人もいる。ある研究では、大学生たちにイケア製の収納ボックスを組み立ててもらい、それを家に持ち帰るためにいくらまでなら払うかを申告してもらった。驚くべきことに、ボックスを組み立てた人たちは組み立てなかった人たちに比べて、より多くの金額を払うと答え、製品にもより満足していた。