実は、優れた商品提案は、ECの黎明期から存在した。Amazon.comが実装したことで広く知られるようになったリコメンデーション・エンジンがそれだ。初期のころ、「Amazon.comに勧められた本を見ていると、かなりの数をすでに読んでいた」という驚きの声が上がった。当時は、書籍Cを買った人は書籍Dを買うケースが多い、という事実に基づいて相関分析を行い、勧める本を決めていた。
こうして一定の成功を収めながら、ECの接客は進化してきた。リアル店舗において、顧客と長く付き合い、顧客個人を深く知り、さらには家族の趣味まで知っている店舗スタッフは、理想的な接客ができる。顧客について深く知れば知るほど、優れた接客ができる。そう考えると、ITにとって接客は得意分野と言うこともできる。ITは、情報をすべて記憶でき、決して忘れてしまうことがないためだ。課題は、情報をどうやって集め、どう分析するとホテルマンのようなホスピタリティをもって顧客サービスを提供できるかという点にある。
ビックデータ時代の到来で顧客分析が加速
近年、ブログやSNS、比較サイトなどで商品や店舗、ECの評価を顧客がリアルタイムに書き込むことが一般化してきた。これまでは、自社が管轄している場所だけの情報にすぎなかったが、この変化により、多種多様かつ大量の情報が集まるようになった。中でも、ECとリアル店舗を持つ業態において、その両方の業態で顧客を知り、顧客サービスを高めるために、データ分析を行うのが効果的だという認識が高まってきた。リアル店舗のスタッフの提案力向上や、チラシのトップに持ってくる目玉商品の企画など、営業/販売/マーケティングのすべての面で役立つからだ。
ECのみの業態であっても、さらに情報を集める努力は続いている。かつては、購入という行為をトリガーにしてきたが、顧客がECサイトを訪れてから閲覧した商品とその滞在時間、最終的に購入した商品など、リアルな店舗を歩き回っているようなイメージでつかむことができるようになった。これらの情報を活用すれば、顧客ニーズを正確につかめるようになり、全体を見ると1対Nの関係性であっても、バーチャルスタッフ対顧客という1対1の関係を築けるようになるのだ。
ビッグデータが大きな注目を集めているが、それはこうした理由による。大量・多種のデータを扱うことで、情報をより深く分析できるようになり、顧客の興味をより正確に、かつタイムリーにつかむことが可能になったのである。
大規模店では、顧客の声をさまざまな方法で拾い集めることができる。ポイントカードを有効に活用し、来店頻度や購買履歴、購買金額をつかむ。接客する担当者は、接客の中で気づいた内容を蓄積し、次に顧客が来店したときには別の担当者がその流れの中で接客できる。情報を的確に分析することができれば、効果的なプロモーション活動を行えるようになる。実際に、チラシの作り方や配り方も、近年大きく変わってきている。限られた予算の枠内で、最も売上と利益を高め、さらに顧客満足度も向上させる施策を打てるようになるのである。