ECも、もはや過去の単なるオンライン販売の方法では優位に立てない。サイト内の行動や、顧客がブログやSNSに書き込んだ情報など、より多くの情報を集め、分析する。情報は多ければ多いほど、優れた顧客体験を生み出す可能性が増える。ビッグデータは、技術的にデータを大量に扱えるようになったことから生まれたプロダクトアウト的な用語ではなく、より多くの情報を分析したいというニーズから発生したムーブメントと考えるべきだろう。
現在、技術的にビッグデータを扱うことは可能になった。すでに、ホテルマンのようなサービスをECでも提供することはできるし、リアル店舗における顧客サービス標準化の準備は整っているのだ。
顧客動向を“探る”から“つかむ”へ。
ビッグデータを技術的に扱えるようになったことで、企業は膨大な顧客データを利用して、優れた顧客サービスを提供できるようになる。その大前提として、顧客の商品選択から購入、付属商品の購入、数カ月後の別商品の購入まで、顧客ライフサイクルをきちんと管理しなければならない。
それに加え、顧客のライフステージもつかむことができればよりよいサービスを提供できる。情報の関連付けも大切だ。きちんと情報が関連付けられていると、たとえば、同居する家族全員が顧客であるケースにおいて、たとえば大型冷蔵庫を夫が購入した直後に妻にメールで勧めるようなことは起こらない。
これらは基礎的な情報であり、こうした情報をベースに施策を考える。そこは人の役割だ。そのために必要な要素は、大きく4つのプロセスに分けられ、一連のサイクルになる。
(1)情報の捕捉
(2)情報の絞り込み
(3)施策の検討と意志決定
(4)実行した施策のレビュー
の4つだ。
情報の捕捉プロセスでは、できる限り多くの情報を集める。十分にビッグデータを扱える技術が整った現在、情報はあればあるほどありがたい。とはいえ、情報の中には不要なものも含まれている。それを捨てるのが、次の情報の絞り込みプロセスだ。ITを使えば、容易に情報の絞り込みができる。大量にプリントアウトされた紙を人がよりわけるような手間と時間は不要だ。ITを使えば、必要な情報を自動的に取り出せる。
情報が集まったところで、施策の検討と意志決定を行う。これは人の役割だ。さまざまな情報を、さまざまな角度から分析した結果を見て判断し、どのような施策を実行するか意志決定する。なお、施策を実行する前のシミュレーションにはITを活用する。シミュレーションは、事実に基づく巨大なナレッジの集積によって生まれたものであることが理想だ。以前に行った施策とその結果から、次の施策を評価する。
最後に、結果をレビューし、次の施策に結びつける。その際、施策の効果をより高めるために必要な情報があれば、情報の捕捉プロセスに新しい項目を加える。
すでに、いくつかの企業がこうした取り組みを始めている。顧客起点のビジネス戦略については、はるか昔から語られ続けているが、最新の技術を利用することで顧客のありのままの姿を“つかむ”ことが可能になった。ほんの少し前までは、顧客の姿を“探る”ためにITを使い、“つかむ”部分は人間の想像力で補完してきたが、事実に基づいて顧客をつかむことが可能になっているのだ。優れたデータ分析によって得られた正確なデータを利用した意志決定は、差別化と競争優位の源泉になる。
実社会の情報は、電子的なデータとして記録できる。データは、ITの力を借りて分析することで、生きた情報へと生まれ変わる。データが情報になり、情報が価値になる。顧客の姿をつかみ、顧客に最適な提案を行える価値ははかりしれない。さらに、顧客に楽しんで買い物をしてもらうための、科学的に正しい施策も実行に移せる。ECであっても、店舗であっても、顧客にすばらしい体験を提供することは、現在すでにある技術で十分に実現可能であると言えるだろう。
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