世界の市場はいまや1つに統合されている――この誤った認識は、諸外国の金融危機に対する必要以上の恐怖とパニックをもたらすとゲマワットは主張する。
このブログの読者はすでにご承知のように、グローバル化に対する一般的な見解とは裏腹に、市場は国境を越えて統合されているとはとてもいえない。ならばなぜ、米国議会での債務上限引き上げをめぐるチキンレースが遠くアジアまで大混乱を引き起こすと危惧されているのか、あるいはユーロ圏の問題が米国の将来の見通しにまで影を投げかけるのか、読者の多くは不思議に思われるだろう。そして当然、どう対応すべきかも知っておきたいはずだ。
目下の問題の一因は、金融が持つ特徴にある。ケインズが述べたように、金融は感情に左右されるものであり、したがって危機に対して脆弱であるとハイマン・ミンスキーは強調している。彼らの結論は実証的な経験則だけでなく、ノーベル経済学賞受賞者のバーノン・スミスらが行った資産市場に関する実験的研究によっても裏付けられている。
この特徴は、国境を越えた文脈で考えるといっそう大きな問題になる。前回の記事で述べたことをおさらいしておこう。他国民への信頼度は、自国からの距離が遠くなるにつれ低下する。西欧諸国における信頼度の調査では、自国民への信頼は自国以外の西欧人に対する信頼の2倍、そして西欧以外の国の国民に対しての4倍も強いことが示されている。もっと距離に左右されるのは、「共感」である――そしておそらく、他国の債務危機を救済するような場合の連帯感も同様だ。そして恐怖は信頼よりも速く国境を越え伝播する。これらはすべて、困難な状況になると他国の金融資産に対する信頼と関与が弱まることを示唆している。
より賢明な金融統合
実際の資本の流れと、非現実的な恐怖を区別するためには、まず「資本は国境など意に介さない」というグローバロニー(グローバル化が完全に推し進められているという妄言)を一掃する必要がある。地域経済間の実際の結びつきは限られたものである、ということを投資家が認識すれば、遠方で起こる経済危機に際してパニックに陥りにくいはずだ。
また政策立案者は、海外直接投資(FDI)――一般的には他の資本よりも、株式投資――の呼び込みに注力すべきである。外国直接投資は経済が苦境に陥っても解消されにくく、また投資によって実質的な生産能力が伸びることで成長が促進される。逆に、外国からの短期的な借り入れ、特に外貨での借り入れには慎重に対応する必要がある。