しかも、企業変革に乗り出そうというリーダーは、ほとんど全員がGEにおけるウェルチの成功事例を参照しているはずである。CEOの座をイメルトに譲った直後にウェルチが出版した回想録(変革のために何度どのようにやったのかの記述が満載)は、日本を含めて世界的なベストセラーになった。「ナンバー1、ナンバー2戦略」に代表される「集中と選択」をはじめ、迅速な意思決定、それを可能にする大胆な構造改革、実行段階での大幅な権限移譲、ビジョンの明示と組織への浸透、それをテコにした意識改革…、といった変革に対する基本的な姿勢は、多くの経営トップが共感するはずだ。だから、「変革しなければならない」という経営者の演説の中には、こうした言葉が次から次へと出てくる。

 さらにいえば、ウェルチを参考にし、そうしたやり方で経営変革に取り組もうとする「普通のCEO」は、言っているだけでなくて、実際に多かれ少なかれ同じようなことをやっているものだ。ウェルチが実行したより具体的な施策にしても、「ワークアウト」「ストレッチ目標」「シックス・シグマ」「バウンダリレス」「360度評価」などは、いずれも「企業変革のベストプラクティス」として取り入れる経営者が後を絶たなかった。

 繰り返すが、「普通のCEO」であっても、CEOであることには変わりはない。大企業であれば、何千人、何万人の中から1人だけ選ばれたリーダーなのである。実績やリーダーシップにおいて、何かの点で卓越したものがあったからこそ、CEOにまでなったはずだ。しかし、ほとんどのCEOがウェルチのようなドラスティックな企業変革を果たせずに終わっている。これはなぜなのか。

 リーダーとしては十分に剛腕で、胆力もあり、実績と経験に優れたCEOが、同じようなことを考えたり行ったりやったりしているのである。にもかかわらず、なぜ会社を変えることができないのか。変革のリーダーとして、ジャック・ウェルチのどこが本当に凄かったのか。ウェルチのチェンジ・マネジメントの本質をつかむためには、「普通の(優れた)CEOはなぜ企業変革ができないのか」を考えてみる必要がある。

 次回は、ウェルチと「普通の(優れた)CEO」を比較しながら、ウェルチの特異なパーソナリティや資質に偏ることなく、「普通の(優れた)CEO」にとっても有用な教訓を引き出してみたい。
 

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