新興国における女性人材の台頭は、経済成長を牽引している。しかし広い目で見れば新興国に限らず、女性人材の能力そのものがいまだ十分に活用されていない――つまりは発展途上にある。企業は女性に機会を提供し能力をもっと活用すれば、多くの実りが得られるとヒューレットは主張する。


 最大の急成長市場とは何か? ヒントは、地域ではなく人口統計と関係がある――答えは「女性」だ。

 グローバル経済の発展の裏には、台頭する女性リーダーのパワーがある――デロイト・トウシュ・トーマツは、国際女性デーにちなんだ第2回年次ウェブキャストで、こう発表した(私は司会を務めた)。発展途上国では、女性の勤労所得は年間8.1%の勢いで伸びている(男性は5.8%)。世界的に見ると、総個人消費18兆ドルのうち、女性の個人消費は約12兆ドルを占め、2014年には15兆ドルに達すると予測されている。

 さらに重要なことだが、いまや高等教育の学位取得者の過半数は女性だ。高学歴で有能な、野心あふれる女性たちは、デリーからドバイにいたる各地で人材プールの大きな部分を占めている。企業にとって、多様性のマネジメントは喫緊の課題である。

 2009年11月、ニューヨークで「隠れた頭脳流出サミット」が開かれた(隠れた頭脳流出とは、女性やマイノリティの能力を十分に活用しないことで企業が被る損失)。イギリス初の黒人閣僚で、最近では在南アフリカ高等弁務官も務めたポール・ボアテング閣下は、サミット加盟団体の代表57名を前に講演を行い、台頭しつつある人材の行く手を阻む障壁を取り除くよう呼びかけた。「みなさんが成長について、イノベーションについて、グローバル市場への進出について真剣に考えているなら、こういった障害を克服しなくてはならないことは明らかです。感情にとらわれず戦略を立て、サバイバルから成功へと飛躍しなくてはなりません」

 次に紹介する2社は、賢明にもこの飛躍を成し遂げている。

●ゴールドマン・サックスの「リターンシップ・プログラム」

 みずからの意志でしばらく職場を離れていた復職希望者を、再雇用するための斬新なプログラムである。キャリアの再スタートを切る際、職場環境は離職前とは大きく変わっているかもしれない。そこで、このプログラムは準備段階として、成功に不可欠なスキルを再学習して新たに能力を磨き発揮するための機会を提供する。2008年にはアメリカで8週間のパイロット・プログラムが実施され、11人の女性が参加した。2009年のプログラムは9週間で、300人以上の希望者から選ばれた16人が対象となった。同年秋には、アジア市場の重要性をふまえ香港でも実施され、37人が参加している。

●グーグルの「インディア・ウィメン・イン・エンジニアリング賞」

 大学や大学院でエンジニアリングやコンピュータ・サイエンスを学ぶ女性を対象とする、奨学金プログラムだ。開始された2008年には、成績優秀でリーダーシップを発揮した16人の女性が、2000ドルの奨学金を獲得した。2009年には、250人以上の優秀な応募者から9人が選ばれた。審査員は、グーグルのシニア・マネジャーとエンジニアが務めている。2009年に選ばれたインド工科大学(IIT)博士課程志願者のアンジャリ・サルダナは、奨学金が夢を追い続ける力になったと語る。「受賞は、専門分野の研究を続けていくうえで励みになっただけでなく、自信にもなって、ほかの若い女性エンジニアに積極的にアドバイスするようになりました」

 企業にとって、女性という急成長市場への投資は、明るい未来に賭けることにつながる。才能の発揮を待ち望む働き手に、新たな有望人材が牽引する経済に、そして言うまでもなく企業自身の発展のために、賭けることをお勧めする。


HBR.ORG原文:Why Women Are the Biggest Emerging Market March 8, 2010
 

シルビア・アン・ヒューレット(Sylvia Ann Hewlett)
非営利の研究機関、センター・フォー・ワークライフ・ポリシーの創設者、所長兼エコノミスト。