専門家ではない人々の意見を集めることで、なぜ、未来を見通すことができるのか? 予測市場の事例を提示する書籍の紹介連載、第2回。オープンな場が興隆している背景を紹介しつつ、ピラミッド型の組織構造は、クリエイティビティにとっては「墓場」でしかない、とトンプソンは言い切る。

 

予測市場にIPOする

 従業員なら誰でもこの市場に参加できる──エンジニアやコンピューター科学者だけでなく、マーケター、会計士、受付係、退職者でさえ。受付係や退職者まで参加できるのはなぜか。「知的帯域幅を制限する必要はないからさ」とラヴォワは答える。新入社員も入社後すぐに参加する。入社1日目から、全従業員がイントラネットにログオンし、将来のテクノロジーや製品、その応用方法に関する提案に目を通す。そして、どの提案を承認し、支援すべきかを、経営陣に対して投資という形で意思表示するわけだ。

 ラヴォワはさらに重要な側面があると述べている。「こう考えてみてほしい。退職する社員はとても幅広い知識を持っているが、その知識は退職とともに消え去ってしまう。したがって、退職後も会社にかかわりたいと考えている退職者なら、自分の知識を活かせる楽しいシステムに、進んで参加してくれるはずだ。私はこれを〝知識の引き留め〟と呼んでいる」

 エクスペクタスを完成させるにあたって、ライト・ソリューションズのアイデアの発案者は〝プロフェット〟を探す。プロフェットとは、アイデアを支持し、アドバイスを提供する社内の人物だ。ひとつのプロジェクトに何人ものプロフェットが存在する場合もある。たとえば、最新のテクノロジーに関するアイデアを提案する場合、アイデアがまとまっていない段階では、科学者のプロフェットの助けが必要かもしれない。アイデアがまとまりはじめ、プロトタイプが必要になってくると、デザインやマーケティングを専門とするプロフェットの助けが必要になるだろう。いつ新しいプロフェットを加えるかを判断するのは、現職のプロフェットの責任だ。

 エクスペクタスが完成したら、プロフェットは新規株式公開(IPO)を発表し、ミューチュアル・ファン・マーケットの4つの市場──セイビングス・ボンド、バウ・ジョーンズ、SPAZDAQ、ペニー・ストック──のいずれかに株式を上場させる。

 セイビングス・ボンドは、収益を向上させるのではなく、コストを削減するためのアイデアだ(訳注/本来Savings Bondsはアメリカ国民を対象とする少額の国債を指す)。たとえば、Knowledge-DNAというティッカー名のセイビングス・ボンドは、ウェブベースのトレーニング・コースの制作を自動化する提案だ。管理者は、自動化の可能な部分を熟知しているため、コスト削減のプロジェクトを考案することにかけては非常に優れている。ラヴォワはこう話す。「管理者は、企業内のどの部署と比べても無駄に直面している。だから、効率化を訴えるには打ってつけの立場なのだ」

 ふたつ目の株式市場はバウ・ジョーンズだ(訳注/ダウ・ジョーンズのもじり)。このカテゴリーは、既存のテクノロジーや機能から新製品や新サービスを生み出すプロジェクトを提案する市場だ。たとえば、チャック・エンジェルという従業員は、軍事用に開発された資産管理テクノロジーを用いて、スクール・バスの位置を追跡し、子どもが正しいバスに乗っているかどうかを監視するというアイデアを提案した。

 3つ目の市場、SPAZDAQ(訳注/NASDAQのもじり)は、ハイリスク・ハイリターンの新市場で使えそうなテクノロジーを提案するための市場だ。そして、4つ目の市場、ペニー・ストック(訳注/本来、「ペニー・ストック」は1ドル未満の株式を指す)は、やがてセイビングス・ボンド、バウ・ジョーンズ、SPAZDAQのアイデアへと変わる可能性を秘めた突拍子もないアイデアを提案し、話し合うための場だ。すべての株式にディスカッション機能が付いており、ここで投資家たちがアイデアを練る。