企業の短期志向を改めると同時に、長期的な株主への価値を最大化する方法はあるか――マーティンは「資本の時間的価値」に着目し、新たな方法を提案する。


 私の著作Fixing the Game: Bubbles, Crashes, and What Capitalism can Learn from the NFL(未訳。2011年、HBR Press)のなかで、企業幹部への株式による報酬が、企業の短期主義に拍車をかけマイナスの影響を及ぼしていると書いた。廃止すれば企業幹部が短期業績に専念する動機を弱めることができるが、それでも解決しない問題が残る。長らく悩んできたが、その答えが(おかしなものだが)ついに浮かんだ。この解決法も簡単には成功しないだろう(だからといって、私はあきらめない)。

 解決しない問題とは、企業の短期主義である。多くの企業が四半期ごとに、あるいはもっと頻繁に、短期業績を向上させるよう株主から圧力を受ける(株主にはヘッジファンドやコンピューターに自動売買させるプログラム・トレーダー 、デイトレーダーが増えてきている)。短期志向のアービトラージャー(裁定取引で利益獲得を狙う投資家)からターゲットにされないかという心配もある。また短期志向の株主が過半数を占めるか、あるいは実質的なコントロールを握るなどして、自社の長期的な展望が妨げられるのではないかという懸念もある。そこで企業は自己防衛のため、短期志向の意思決定に注力するようになる。そうして長期志向の意思決定をしなくなる、という矛盾に陥るのだ。

 この問題を解決するために、私は資本の時間的価値に注目した。資本の価値は(当然のことながら)時間と関係している。仮に、私が1ドルを誰かに1週間貸したとしたら、借り手にとっての価値は1ドルを1日だけ貸してもらった場合よりも大きい。1週間借りる時、借り手は1日の場合より資本の費用を喜んで多く払うだろう。おそらく7倍くらいは払うはずだ。

 企業が製造やマーケティングなどに必要な長期的な投資を行う場合、何年間にもわたって資本が必要になる。数日間ではない。したがって、短期間だけ提供される資本は長期間にわたり提供される資本より価値が低い。ある投資家が1株買って10年間保持したら、企業にとってその価値は、デイトレーダーが1株買って次の日に売却した場合よりも大きい。

 つまり、企業は株主が保有する株式数と、保有する期間の両方で株主を評価するべきだということになる。ある巨大ヘッジファンドが企業の株式の2%を買ったが2日間しか保持しなかった場合、企業にとってその価値は、ある長期志向の投資家が1%未満のわずかな株式を買って10年間保有した場合よりも小さい。