本誌2013年10月号(9月10日発売)の特集は「顧客を読むマーケティング」。これに合わせ、HBR.ORGから関連記事10編をお届けする。第2回は、顧客エンゲージメントに関する誤解を明らかにする。顧客との絆を強める取り組みは近年ますます重要視されているが、 ブランドと関係を持ちたがっている顧客は実は少数派であるという。
顧客を維持する最良の方法は「エンゲージメント」、すなわち、顧客と可能な限り交流を持ち関係を築くことだ――多くのマーケターはこう考えている。しかし、これが真実となるケースは稀であることが明らかとなってきた。我々は7000人以上の消費者を対象に行った調査から、企業が消費者とのエンゲージメントに関して、危険なほど誤った考えを抱いていることを発見したのである。以下の3つの誤解を見てもらいたい。
誤解1:消費者はブランドと強い関係を持ちたがっている。
実際はそうではない。我々の調査では、ブランドと強い関係を持っていると回答したのは、全体のわずか23%だった。消費者の典型的な世界観では、関係を築く相手というのは友人や家族、同僚である。だから、ブランドと強い関係を持っていないと回答した77%の人々にその理由を尋ねると、次のようなコメントが得られた。「ブランドは単なるブランドであって、家族の一員ではない」(消費者がオンライン上でブランドと関わり合う際に、本当に求めているのは値引きである)。
では、どのようにマーケティングを変えるべきだろうか。
まず、消費者のうち誰が23%に属し、誰が77%に属しているかを理解することだ。強い関係を持ちたがっているのは誰で、そうでないのは誰だろうか? そして、これら2つのグループに対する期待値を異なるものとし、異なるマーケティングを行う。関係を求めていない人と関係を築こうとして、次々とメールを送ったり、複雑なロイヤルティ・プログラムを提供したりするのはやめよう。こうした努力のROI(投資収益率)は低いはずだ。マーケティングミックスの他の部分に投資したほうが、高いリターンを得られるだろう。
誤解2:インタラクション(顧客との交流)により、強い関係が築ける。
そうではない。強い関係を築くのは、価値観の共有である。価値観の共有とは、ブランドの高次の目的や哲学に関して、ブランドと消費者の両者が同じ考えを抱くことである。たとえば、ペディグリー・ドッグフードが共有する価値観は、すべての犬は愛情あふれる家を持つ資格がある、というものだ。サウスウエスト航空の場合は、より多くの人々に空の旅を、という信念に立脚している。
我々の調査でブランドと強い関係を持っていると答えた人のうち、その主な理由として価値観の共有を挙げた人は64%にのぼった。他を大きく引き離してのトップである。一方で、頻繁なインタラクションを理由としたのは、わずか13%だった。
では、どのようにマーケティングを変えるべきだろうか。
多くのブランドが明確な高次の目的を、そのミッションのなかに掲げている。パタゴニアは環境への取り組みであり、ハーレーダビッドソンは「バイクに乗るという経験を通じた夢の実現」である。これらは消費者に信ぴょう性を感じさせ、価値観の共有や関係構築の基盤となる。強い関係を築くには、自社ブランドの哲学や高次の目的を明確に伝えることから始めよう。
我々のコンサルティング会社、コーポレート・エグゼクティブ・ボード(CEB)は価値観の共有について幅広く研究を行っており、BMWの〈ミニ〉やぺディグリー、サウスウエストなどのブランドが、顧客を巻き込むうえでどのように価値観の共有を用いたかを解説している。また、ジム・ステンゲルによる成長のための理念に関する研究(『本当のブランド理念について語ろう』阪急コミュニケーションズ)や、デービッド・アーカーのブランド・レレバンスについての最新の研究(『カテゴリー・イノベーション』日本経済新聞出版社)も参考になるだろう。