戦略とは何か。その本質を説き続けるマーティンは今回、戦略を「計画の立案」と考える旧弊について述べる。事業活動の予定を並べ詳細な説明を加えた計画書は、戦略とは程遠いものであるという。
私はこれまで、「戦略計画を立てる必要がある」という言葉を、「戦略を立てる必要がある」という言葉の少なくとも10倍多く耳にしてきた。その理由は、戦略が計画書の作成における1つのプロセスのように考えられているからだ。こうした考え方の下では、戦略は事業活動の予定を並べた長いリストとして表され、それぞれに割り当てられる経営資源と期限が記される。
私にとって興味深いのは、こうした活動予定そのものが「戦略」と呼ばれることが多い、ということだ。つまり、個々の活動それぞれが戦略であり、それらを整理して並べたものが計画ということになる。
しかし、この種の戦略計画は予算計画とどう違うのだろうか。私と仕事をする人々の多くは両者を区別するのに苦労し、なぜ一企業が両方を持つ必要があるのかと疑問に思っている。その疑問は正しいと私は思う。私は戦略の分野で働いて30年以上になるが、その間に見た戦略計画の大半は単に予算計画で、それに説明の言葉がたくさん添えられただけのものだった。これはおそらく、大半の企業で財務部門が戦略策定のプロセスに深く関わっているためだろう。また、とくに管理職のあいだで戦略計画が毛嫌いされることが多いが、それも戦略の実態が予算計画にすぎないからであろう。次の戦略計画の時期が来るのを楽しみに待っている人を、私はほとんど知らない。
戦略をもっと面白くし、また予算計画とは異なるものにするには、「計画」へのこだわりから解放される必要がある。戦略は計画ではない。戦略とは複数の選択を統合する作業である。それらの選択が一体となって業界における企業のポジションを決め、競争における持続的な優位をつくり出し、金銭的にも高いリターンをもたらすようにするものだ。この点を明らかにすれば、企業の管理職も、戦略とは単に響きのよい言葉を並べただけの予算計画ではないと認識し、戦略にもっと興味を持つようになる。
もちろん、事業活動や投資や予算なしでは、戦略は実行できない。だが、それらに取り組む前にマネジャーが目を向けるべきなのは、一連の事業活動を首尾一貫させる戦略なのだ。