好評をいただいた連載も、今回がいよいよ最終回です。テクノロジー、デジタル環境の変化により、顧客の定義が拡張し、優良顧客の捉え方もまた変化しています。顧客データの分析や顧客とのコミュニケーションアプローチはどのように変化するのか、電通での取り組みも含めて考えていきます。
テクノロジーの進化に伴い、顧客に関する様々なデータが大量に取得できるようになったことや、デジタル化の進展に伴い、リアルタイムでの顧客とのコミュニケーションが可能になったことなどにより、近年、あらためて、CRMへの関心が高まっています。本稿では、ますます重要性が高まる「顧客経験マネジメント」について、現状の課題を踏まえつつ、電通の取り組みも含め説明します。
「顧客データ化」の必要性
顧客との良好な関係を築くことによって、LTV(顧客生涯価値)を最大化していく、というCRMの目的とするところは変わっていないものの、「顧客」の定義と、マーケティングにおけるデータ活用という点では大きく変化しました。かつては、「顧客」というのは「買ってくれた人」であり、顧客獲得と顧客維持のプロセスは分断されていました。また、マーケティングデータの活用という面でも、マスメディアを中心とした広告によって消費者の心理がどう変化したかというデータと、店頭を中心とした売上の集約データを、それぞれで管理しているのが実状でした。
しかし、テクノロジーの進化によって、生活者との接点、コンタクトポイントが激増するとともに、その属性、行動データが大量に蓄積できる環境が整いました。その結果、顧客データベースに存在しない見込客、言い換えると、まだ買ってくれていない人たち、買ってくれる可能性がある人たちに関する情報やデータの取得が可能になりました。これまで分断されてきた、顧客獲得と顧客維持のプロセスがつながることで、「顧客」の定義が拡張し、LTVの最大化のためには、まだ買ってくれていない人たちも含め「顧客」と捉えられます。そのため、適切かつ継続的なコミュニケーションによって顧客経験価値を向上させる関係性づくりを実現する「顧客経験マネジメント」がますます重要となるのです。
このためには、ひとりひとりの顧客の行動が、きちんと追跡できるようになっている必要があります。すなわち、個々の顧客に関するデータが、きちんとつながっている、一元管理されている必要があります。しかし、実際にはどうでしょうか。
確かに、現在では、様々なコンタクトポイントを通じて、顧客に関するデータを大量に取得し、蓄積できるようになっています。たとえば、キャンペーン応募者データ、メールマガジン会員データ、サイトアクセスログ、メール開封・クリック履歴、ポイント関連データ、ECでの購買データ、店頭でのPOSデータ、問い合わせデータ、アンケート回答、さらには、 Twitterでアカウントをフォローしてくれている人、Facebookページにいいね!してくれている人、その属性や発言内容も取得可能な状況です。
しかし、これらの「顧客に関するデータ」は、それぞれ、運用、管轄している部署が別々であることが多く、実際には別々に蓄積されていることから、それぞれのデータ項目が、ひとりの顧客に紐づいておらず、顧客データとして一元管理されていないケースが大半なのが実状です。せっかく蓄積された貴重な「顧客に関するデータ」が、本当の意味で「顧客データ」とはなっていない、いわば「顧客データ化されていない状況」であると言えるでしょう。