競争力の源泉が企業の学習能力に移り変わる時代。学習からいかに事業を進化させ競争優位につなげていくか。今回は日東電工を例に、事業領域を広げていく手法を紹介する。
日東電工が実践する「三新活動」とは
失われた20年の勝ち組100社を類型化すると、もっとも持続可能性の高い経営モデルとして「タイプX」が有望であることを、前回ご紹介した。日本企業のお家芸である「オペレーション力」を基軸としつつ、その上で、「事業モデル構築力」と「市場開拓力」をツインエンジンとして掛け算(X)させて駆動している経営モデルである。
そして、そのような「X経営」を実現するための切り口として、3つのX(①X(エクス)テンション、②X(クロス)カプリング、③X(トランス)ナショナル)が有効だということを指摘した。本稿では、その第一の切り口を、具体的な企業の事例で検証してみよう。
たとえば、トップ100社リストの13位に入った日東電工。同社の事業分野は、エレクトロニクス分野、自動車関連分野、住宅建材分野、一般工業関連、環境関連、ヘルスケア関連と多岐にわたる。一見すると典型的な多角化企業のようにみえるが、実は同社の基幹技術は粘着技術と塗工技術の2つだけ。この「貼る」と「塗る」をいろいろな目的に活用することによって、フラクタルに事業のフロンティアを広げ続けている。
日東電工の柳楽幸雄社長は、「GE+3M(スリーエム)」を目指すと公言している。「GEのように世界シェア1、2位になれる商品だけに特化し、3Mのように市場は小さくとも、常に新商品を投入し続けたくさんのトップシェア商品を確保し続ける」。名付けて、「グローバル・ニッチ・トップ」戦略。
それを裏づける運動論が、もう50年以上も続いているという「三新活動」である。新用途開発と新製品開発に取り組むことで新しい需要を創造するという活動を指す。
原理はいたってシンプルだ。市場と技術の二軸を、それぞれ現行と新規に分けると、四象限のマトリクスが浮かび上がる。
現在の事業では、現行の市場に現行の技術の商品を提供している。そこから一気に、市場も技術も新しい「飛び地」に進むのは、至難の業だ。
そこで、まずは同じ技術をベースに「新」しい使い道(用途)を開発するか、「新」しい技術をベースに新しい製品を開発するか、どちらか一方向にずらす。こうして一歩進んだうえで、もう一方のほうへ進むようにすると、難易度が下がり、結果として飛び地の「新」需要創造にたどり着く。この三つの「新」を重ねて進化し続けるというのが、日東電工の三新活動の原理である。