学習優位を築くために、日本企業が気をつけるべきこと
マイケル・ポーターの提唱する競争戦略が一世を風靡する中でも、競争には目もくれず、ひたすら市場の動きを先取りして、自社の強みをずらし続けることで、持続的なイノベーションを実現していく。そのような愚直なまでの学習プロセスが「学習優位」をもたらし、「グローバル・ニッチ・トップ」という、競争優位とは無縁の高みへと導いてくれるのだ。
思えば、このような現場の運動論を通じて学習優位を築くことは、オペレーション力の高い日本企業が最も得意としてきたことではなかっただろうか。競争戦略に翻弄されることなく、日本企業らしいDNAを今一度覚醒させることが、学習優位の経営に立ち返る近道といえそうだ。
ただし、ここで日本企業が陥りがちな2つの罠に留意する必要がある。
1つ目の罠は、常に同じ立ち位置で学習を繰り返してしまうこと。いわゆる現場のカイゼン運動だ。これではタイプJが最も得意とする現場のオペレーション力の磨きあげにおわってしまう。このような同質的な学習の蓄積だけでは、次世代成長は期待できない。
非連続な成長を実現するためには、学習の場そのものをずらす(脱学習)必要がある。そのためには、従来型の事業の軸足をずらしてみるのが有効だ。日東電工が、RO膜事業において、モノ(製造)からコト(サービス、そして、トータルソリューション)へとずらしていったように。
アンファミリアー(未知)な領域に挑戦し、学習を通じて、それをファミリア‐(既知)の領域に変えていく。これが学習優位(ファミリアリティ・アドバンテージ)の本質である。
そのためには、まず自社の「軸」を見極めなおす必要がある。日東電工であれば、貼る、塗るという技術だ。そして、その軸をぶらすことなく、事業領域をずらしいく。このように強み伝いに「Xテンション」(拡業)を繰り返すなかで、事業モデル構築力が組織内にビルトインされていくのである。
2つ目の陥穽は、もっともファミリアな日本市場に軸足をおいて、事業を展開しがちな点である。それでは単なるガラパゴス市場のニッチプレーヤーに陥ってしまう。
ニッチであっても世界一をめざす日東電工は、世界中の知恵を集めることに余念がない。たとえば、アメリカのハイドロノーティクス社を買収し、そこを水事業のグローバル展開のハブにしている。同社が世界的な水コンサルタント会社などとつながりが深く、情報収集や営業力の面で大きな威力を発揮しているからだ。
一方で、グローバルなR&Dセンターは、シンガポールに置いている。
大量の淡水をマレーシアからの輸入に頼っているシンガポール政府は、海水の淡水化を国家の四大プロジェクトの1つに掲げている。「ウォーターハブ」構想と呼ばれているものだ。シンガポール公益事業庁(PUB)みずからが、肝いりで淡水化事業を進めている。また、政府とタイアップして、水処理プラントを建設している同国のハイフラックス社は、シンガポールにとどまらず世界中でエンジニアリング活動を展開している。今では世界の水メジャーの一角を占めるグローバルプレーヤーだ。