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「いまを生きる」ことからすべては始まる
編集部(以下色文字):ジャパネットたかたは、カメラ店からラジオ、テレビショッピングへと事業を拡大し、髙田(たかた)さんが引退するまでの25年間で年商1500億円企業へと成長しました。しかし、この目覚ましい成長は、目標を掲げて達成したものではないそうですね。
髙田(たかた)(以下略):経営者の中には、「1兆円企業を目指す」といった大きな夢を持つタイプの方もいらっしゃいます。ですが、私はそうした遠い未来を思い描くタイプではありませんでした。先ばかり見ても、足元がしっかりしていなければ前に進めないと思っているからです。とにかく大事にしていたのは、「いまを生きる」こと。「ローマは一日にして成らず」というように、いまできることに一生懸命になって一歩一歩積み上げていくと、自然と次の課題が見えてきます。それを乗り越え、また新たに見えた課題に取り組んで乗り越えるという繰り返しがジャパネットたかたの成長につながったと考えています。
私が講演でもよく紹介しているピーター・ドラッカーさんの言葉があります。それが「われわれは、未来を語る前にいまの現実を知らなければならない。なぜならば常に現実からスタートすることが不可欠だからである[注1]」です。変えられるのは未来だけで、その未来をつくれるのはいましかない。人や会社の成長はいまからしかスタートできないからこそ、いまできることに最善を尽くすべきだと思います。
こうした「目標を持たない経営」は、たしかに不思議だと思われるでしょう。30歳の時、家業のカメラ店の支店を長崎・佐世保に出し、私と妻とスタッフ2~3人で営業を始めました。その後独立し、1990年にラジオショッピングを本格的に開始したところ、年商は2億7000万円から4年後の1994年には43億円へと急成長しました。ですが、最初から「年商を40億円にしよう」と考えていたわけではありません。ただ目の前の仕事に必死に取り組んでいただけなのです。
初めて長崎県内でラジオショッピングをした際は、わずか5分の持ち時間で100万円を売り上げ、驚きました。こんなに売れるなら、長崎だけでなく、他の地域でもやりたい。そう考えて営業をして回り、九州、中国、四国に広げ、最終的には北海道から沖縄までの全国ネットワークが完成し、結果として売上高が40億円を超えていたというわけです。
一つの課題を解決したら、必ず新たな課題が生まれます。テレビショッピングを始めた後も、テレビの制作現場に問題があるとわかり一生懸命に解決しようとしたら、次は商品調達の問題が見えてくる。これを解決しようとしたら、さらに他の部署の問題も見えてくるといったように、部分的な問題を解決するために地道に取り組んで最善を尽くすと、自然と全体的な問題にも向き合えるようになり、それが成長につながっていきました。
つまり、「いまを生きる」ことに集中すれば、多くの問題は解決に向かうのです。たとえうまくいかなくても、試行錯誤の経験はけっして失敗ではなく、必ず次の成長につながると考えています。
実際には、なかなか問題を解決できず、前に進めない人や企業も多いように思います。
長年、改善できない問題を抱えている、何年も会議で同じ課題を挙げていると思ったことはないでしょうか。それは、ただ課題を口にしているだけで、行動に移さないことが原因かもしれません。
ドラッカーさんの名言で、私が共感している次のような言葉もあります。「あらゆる変化について、本物の変化か流行かを見分けなければならない。見分け方は簡単である。本物の変化とは人が行うことであり、流行とは人が言うことである[注2]」というものです。つまり、話に出てくるだけでは一時の変化にしかならず、行動に移して初めて本当の変化が起こるということ。この言葉のように、人はいくつになっても、これまでの自分に照らし合わせて、「どんな変化を起こせたか」を考え、努力を重ねなければならないと思います。



