グローバル化=国内産業の空洞化
という歪んだ認識

 企業のグローバル化の最大の目的は、海外市場で拡大する需要の獲得です。それを達成するための本質的な国際競争力の構築が求められているのです。そのためのアイデア、アプローチは多様ですが、今回は国際的な分業体制のあり方について考えてみましょう。キーワードは、国内産業の空洞化を伴わない「ビザ型グローバリゼーション」です。

 まず下の表「海外活動の国際比較」をご覧いただきたい。見てわかるように、日本の輸出額と直接投資残高の対GDP比率の低さが際立っています。

 まず注目したいのが輸出比率の低さです。日本の資源輸入の大きさを考えれば、この程度の輸出比率で十分な外貨を獲得できるのか不安になります。一方、韓国や中国の輸出比率の高さは、日本の高度成長期よりもはるかに高い。

 直接投資残高の比率でも、ドイツやアメリカに大きく水をあけられています。ドイツは欧州市場を控えているとはいえ、日本のグローバリゼーションの進行が鈍いことは明らかです。この事実から、輸出にも海外直接投資にもためらいがちな日本企業の姿が浮かび上がってきます。

 その背景にあるのが、「グローバル化=国内産業の空洞化」という歪んだ認識です。『通商白書 2012年度版』によれば、「自社で空洞化は起きていないが、国内全般では空洞化が起きている」と考える企業がきわめて多いことが明らかになりました。

 これに対し、さまざまな研究が興味深いデータを示してくれています。例えば、事業活動の海外展開によって空洞化が起きる危険性は小さく、むしろ海外展開をしないと、企業あるいは産業全体として雇用は減っていくというのです。なぜなら、海外への生産基地・開発基地の展開後、雇用が維持される“海外展開の2次効果”があるからです。

 では、国内生産を維持しながら海外を強化する方策とはどのようなものか。その答えは、「国内事業と海外事業とがさまざまな形でつながっている」という平明な事実に立ち返ることです。例えば、生地が中心部から外縁に向かって延びていくピザのように、真ん中(国内)が薄くなってもその分外側(海外展開)が広がって、一番美味しい部分は国内に残る。空洞化(ドーナツ化)ではなく、ピザ型のグローバリゼーションを目指すのです。

 ここで、ものづくりの工程を整理しておきましょう。それ大きく分けて、製品設計、基幹部品生産、一般部品生産、最終製品の組み立てという4つです。例えばコマツは、製品設計と基幹部品生産を日本で、一般部品の生産や最終組立は世界中の現地工場という国際分業です。アップルも、製品開発とデザイン、ソフトウエア開発はカリフォルニア、部品調達は韓国や日本、最終組立は中国という体制を取っています。

 国際的な分業体制は、ある製品のオペレーションすべてを海外に持っていくのと異なり非常に手間がかかります。にもかかわらず、企業がそれを志向するのは、技術の空洞化を恐れているからにほかなりません。つまり、価格競争に陥らず、競争の核心となる部分は手元(自国)に置いておきたい。特に日本の産業界は、空洞化による雇用の減少を避けたいという思いが強く、85年のプラザ合意以降の円高を背景にした海外進出においても、かつてのアメリカ産業のような空洞化は起こりませんでした。

 問題は、こうした危機意識を背景にしながら、シュリンクする国内市場ではなく海外の需要を獲得するための本質的な国際競争力をピザ型のグローバリゼーションとどのように結び付けていくかです。