「国内への仕事の環流」を実現する
マネジメント体制の構築を急げ

 そのポイントは、海外需要を獲得できる製品の国際競争力、仕事の国内環流の仕組みづくり、ピザのトッピングになり得る国内ベースの準備、の3つです。

「海外需要を獲得できる製品の国際競争力」とは、製品を生み出す取り組みです。サムスンとの比較で述べたように、日本メーカーは製品開発競争で戦略的な敗北を喫しています。まずは、敗北を深く認識し、海外市場にマッチした開発への注力、デザイン志向の強化、日本の得意技が生きる分野への集中などに取り組まなければなりません。

 2つ目の「仕事の国内環流」は、ピザ型グローバリゼーションの“肝”です。これには3つのパターンがあります。

 すなわち、<1>海外の工程の後の工程を国内につくる、<2>海外の工程の前の工程を国内につくる、<3>海外市場へ供給する工程を国内につくる、です。

<1>では、最終製品は国内向けが主となります。空調メーカーのダイキン工業は、コンプレッサーなどの基幹部品を中国で作り、国内市場の細かな需要変化に機動的に対応するため最終組立を国内で行っています。

<2>は、国内から海外へと工程が流れていきます。2つの工程はつながっているので、海外の工程の量が増えれば、必然的に国内工程の仕事量も増える。つまり、海外事業の拡大で国内に仕事が環流します。

 国内にどのような工程を置くかはさまざまな形が考えられ、それが企業の基本的な戦略になるでしょう。例えばYKKは、世界各地で製品を作っていますが、生産設備のほとんどすべてを富山県にある本社の工機部門で開発、生産しているのです。

 最後の<3>は、最も基本的な輸出型です。

 実際にはこれら3つのパターンが複雑に絡み合いながら、国際分業体制を築くわけですが、重要なのは国内への仕事の環流を意識したマネジメント体制を追究することと、“ピザ”を拡大・代謝させる原動力としてのイノベーションへの取り組みです。

 マネジメント体制で一言加えるならば、「経営者は、若い人たちを海外に出し、駐在コストをケチるな」。日米企業の駐在コストをめぐる考え方の違いを見ていると、つまらぬこところでケチケチしては、成功はおぼつかないと実感させられます。現地化は心地よい言葉ですが、本社の強い意志を現地企業に示し、成果をあげるにはスタッフの派遣が不可欠です。そのために1人当たり2000万円ほどの経費がかかっても、結果的には安上がりです。

 最後に、3つ目のポイントの「ピザのトッピングになり得る国内ベースの準備」について。これは、まさにピザの真ん中の一番美味しいところのこと。それはつまり、日本の得意技を発揮でき、競争優位を築きやすい「技術の蓄積」についての戦略です。これからの日本産業の中心に据えるべき「産業分野のあり方」をめぐる戦略といってもよい。これについては次回、「複雑性産業」を軸に考えてみたいと思います。