複雑性の高いセグメントを強化する

 複雑性産業では、製品の機能としても生産工程としても複雑性が高く、従事者がかなり込み入った仕事をきちんとこなし、また多くの人が協調しなければ、最終的に機能する製品やサービスが実現しません。これが、ピザ型グローバリゼーションの一番美味しいトッピングになり得るのは、次の4つの条件のすべて、あるいは大半を満たすと考えられるからです。

<1>日本全体の産業集積、技術集積を
  活かせる
<2>日本の組織の得意技に合っている
<3>電力生産性が高い
<4>ピザ型ネットワーク分業の原点に
  なり得る

 複雑性の高いセグメントにおける製品、部品・部材の開発と生産(あるいはサービスの提供)は、個々の部分の要求レベルが高く、それに応えられる技術力の蓄積や供給力が不可欠です。さらに、チームワークをベースにした組織内調整や擦り合わせも必要ですが、これは日本組織の得意技そのものです。

 3つ目の電力生産性とは、ある産業の電力消費に対する付加価値額の割合を示すものです。電力使用量1kWh(キロワットアワー)当たりの付加価値額、つまり1kWhの電力を使って何円の付加価値を生み出せたかを見ます。

 複雑性産業は、分子となる付加価値が大きく、分母となる電力消費も効率が高い。なぜなら、人の手による「工房」という側面が強いからです。クリーンルームなどのように電力商品の多い施設が必要だったとしても、あるエリアだけをクリーンルームにして効率をよくするアイデアなどがすでに実用化されています。

 4つ目の、原点としての国内生産部分の機能についても、複雑性ゆえの分業の工夫の余地の大きさがプラスに働くでしょう。

 読者の中には、私の考えが、健康やエネルギー産業など4分野に注力するアベノミクスの成長戦略とは異質であると感じる人もいることでしょう。確かに、私の考え方は、特定産業の隆盛を提言するものではなく、むしろ1970年代の通産省産業構造審議会が発表した「知識集約型産業」と近い。それは「高い知的活動が生産に重要な役割を果たす産業」であり、特定の産業が日本を支えるのではなく、「ある共通の特徴を持った製品やサービスの特徴そのものが日本を支える」という構想でした。

 実際、その後の日本は、特定の産業分野に構造的にシフトするのではなく、産業の体質そのものを知的集約型に変換していくことで自動車や化学・化学製品、一般機械の比重が高まり、一方で金属関連の非常もあまり低くなりませんでした。今私が強調したいのも、各産業の中に存在する複雑性セグメントを見極め、そのセグメントを強化して産業力を強化していくということです。