有能人材を確保しモチベーションを高めるには、金銭的報酬のみではもはや十分ではないという。従業員が最も重視する3つの見返りをふまえ、待遇面の再考を図ってはいかがだろう。
有能な人材を引きつけ、つなぎ留めておくことは、好不況にかかわらず常にマネジャーの関心事だ。しかし業務の範囲は拡大する一方なのに給与は頭打ち、という現状では、予算内で有能人材を引きつけ、成果を上げている優秀人材にも報いるなど不可能に近いこともマネジャーは知っている。だが、いいニュースがある。不可能に挑む必要はないかもしれない。
センター・フォー・タレント・イノベーション(CTI)の調査によれば、金銭的報酬は大卒労働者の最大のモチベーションにはなっていない。これは、昇給やボーナスがどうでもいいということではない。昨今の不安定な経済状況ではなおさらだ。しかしCTIの最近のデータによれば、幅広い世代の人々が従来の待遇面の見直しを求めている。その対象者はキャリアの頂点を目指し懸命に働いてきたベビーブーマー世代から、職業人としての野心と個人としての充実を求めて葛藤するX世代、そしてワークライフ・バランスを当然の権利とみなすミレニアル世代(Y世代)までを含む。彼らが求めているのは、仕事への熱意(エンゲージメント)やロイヤルティを高めてくれる何かであり、義務の範疇を超えて尽力するほどの意欲を引き出してくれる何かである。それらは予算を必要としない。たとえば、在宅勤務についてのアンケート調査によれば、ミレニアル世代の83%、ベビーブーマー世代の75%が、働く時間と場所を自由に選べるなら110%の尽力をいとわない(つまり、いま以上に全力を尽くす)と答えている。
待遇面の見直しにおいて、金銭以外の3つのものが提供されれば、金銭的報酬と同等かそれ以上の意味を持つ。
1.誰もがフレックス勤務を求めている
職場で何にも勝る特典があるとしたら、それはフレックス制だ。CTIの調査によれば、ベビーブーマー世代の87%、X世代の79%、ミレニアル世代の89%が、柔軟な勤務形態は重要だと答えた。
在宅勤務や時差出勤、時短勤務などの制度を通して時間を通貨のように扱う企業は、有能な人材を引きつけ、つなぎ留めておける可能性が高い。ワークライフ・バランスは、家庭生活と職場での重責を両立させようと苦労する女性たちが求め続けてきたものであった。現在では、X世代の父親や、仕事とプライベートの両方を充実させることは基本的な権利だと考えるミレニアル世代も賛同している。ある父親は、CTIのフォーカス・グループで次のようにコメントした。「僕はわが家の唯一の稼ぎ手ですから、いまは休むことはできません。けれども新しい仕事を探す時には、柔軟な勤務形態が認められるかどうかを、何よりも重視するでしょう」
時差出勤と在宅勤務は、新興国市場でも大人気だ。ブラジル、中国、インドの主要都市の多くでは、ラッシュアワー時の道路は渋滞で騒々しい駐車場さながらの様相を呈し、通勤がストレスに満ちた試練となっている。「中国の女性人材をめぐる戦い」と題したCTIの調査では、北京に住む企業幹部が在宅勤務をすれば、1日2時間余分に仕事ができるだろうと述べている。事実、金融グループHSBCのインド支社がフレックス制を導入したところ、2年間で参加した従業員の88%の生産性が大幅に向上し、残り12%の従業員についても生産性の低下は見られなかった。