本誌2014年3月号(2月10日発売)の特集は、「意思決定を極める」。日々行うさまざまな決断のなかで、特に組織の命運を左右する重大な意思決定に焦点を当て、そのメカニズムと実践法を論じる。HBR.ORGからの関連記事第1回は、人の判断を歪める最も一般的なバイアスとその対処法を紹介する。よく知られているものもあるが、改めて押さえておきたい。
「人間が抱えるどんな問題にも、簡単な解決策が常に存在する――美しく、もっともらしいが、間違った解決策だ」。ジャーナリストで批評家のH・L・メンケン(1880~1956)はこう書いた時、気づいていなかった。この言葉が意思決定の核心に触れているということ、そして人は意思決定における課題を理解し克服する必要があるということを。
上級マネジャーは、自社に関する重大な意思決定を日々行う。それには通常、社内外の専門家で構成されるチームによる支援と、多くの調査が必要となる。理論的には、企業の成功を支えているのはこうした知識をベースにした意思決定だ。しかし、哲学者プラトンはこう指摘した――「人間の行動には3つの源泉がある。欲望、感情、そして知識である」。さらに、ダニエル・カーネマンが著したベストセラー『ファスト&スロー――あなたの意思決定はどのように決まるか?』(早川書房、2012年)や、私たちの実際の経験からもわかるように、人間の行動にはさまざまな面でもろく気まぐれな部分があり、それが意思決定を下す能力に表れる。
筆者は、さまざまな事業機会のリスク、リワード(利益と損失)の潜在性をモデル化する仕事をしている。その過程で、このような影響力のある、往々にして無意識的な要因への対処は避けて通れない。特に企業のリスク管理の分野では、意思決定の選択肢を精緻に分析しようとするならば、シナリオのみならず、その根底にある思い込みや前提を疑ってみることが不可欠となる。
企業のリスク管理に関わるアクチュアリー(保険数理士)である筆者らは、行動経済学者から学んだことを基に、公私を問わずあらゆるリスク/リワードの意思決定に入り込むバイアスのなかで最もよく見られるものを選び出した。判断を歪める要因を明らかにして認識することで、意思決定の方法、および決定から生じる潜在的リスクの評価はより適切で信頼できるものとなる。なお、考慮すべきなのは意思決定者自身のバイアスだけではない。周囲の人、チーム、そして競合のバイアスも考える必要がある。以下に、意思決定に関する主なバイアスと、それがもたらす判断の歪みの例を挙げる。