言語化のプロセスを省略した
思考と表現
パステルを手にするのも初めてに近く、正方形の紙を前にまずはどんな絵を描くか考えました。考えると言っても最終アウトプットは絵です。「考えたこと」→「言語化」→「ビジュアル表現」という三段階であることが改めてわかりました。しかし、なかなかビジュアルのイメージが出てきません。自分にとって「働く」とはどういう意味だろうと考えるものの、それが絵のイメージに落とし込めない。迷っていてもしょうがないので、パステルをもち大きくイメージできた色と構図から描くことにしました。描き出すと技術のなさを痛感します。頭のなかにある線や色がうまく出せない。逆にそれが、頭の中に絵のイメージがあることに気がつきます。
大枠を描いていくうちに、だんだんと迷いなく描けるようになってきました。頭の中にあるのは、常に「働く」というイメージ。ただ言語化というプロセスを省略しています。つまり「考えたこと」→「ビジュアル表現」というダイレクトな反応が起き始めました。
何かに没頭すると時間を忘れる。40分はあっという間にすぎ1時間近く描いていました。言語化を省略すると、あきらかに普段の頭の使い方とは異なることを実感します。考えていないような、熟考しているような。感覚的でありながら内省しているような。
いまだうまく表現できませんが、非日常的な思考の時間だったことは間違えありません。
出来上がった絵は、皆で鑑賞し、作者は何を表現したかったのかを言い合います。こちらの感想が作者の意図とまったく違うこともあれば、フィードバックをもらって作者自身が「そういう思いもあったかも」と内省します。私の絵に対するコメントも、自分では意識しなかったものも多かったです。

参加者の描いた数々の絵
普段の仕事は言葉をつかって表現することです。その最終アウトプットである「言語化」のプロセスを省略すると、言語化できなかった考えや思いも表現できるものです。危うさは、それが相手に正確に思いが伝わらない可能性があることです。ここは技術の問題もあるでしょうが、一方で、伝わったものが本当の自分の思いの一部である可能性もあります。
思考すること、表現すること、そしてコミュニケーションの本質に迫る体験だったことだけは間違いありません。そして絵の出来栄えはどうでもよく、描いていた時間がかけがえのない体験となりました。(編集長・岩佐文夫)