SAPの調査によれば、高い成果を上げる従業員の5人に1人が「今後半年以内の離職」を検討しているという。優秀人材の要望を把握し、定着率を高めるヒントを示す。

 

『パーソネル・サイコロジー』誌に掲載された論文によれば、ハイパフォーマー(高い成果を上げる人材)は平均的なパフォーマーより400%高い生産性を示すという(英語論文)。

 しかし多くのマネジャーは、自社の労働力に関するデータを考察する際、従業員を大まかなカテゴリーの中でまとめて扱っているため、有効な判断ができていない。ある企業で従業員の平均勤続年数が6年だとして、それは良いのか悪いのか。フォーチュン500企業を基準にするなら、良い数字だといえるだろう。500社の勤続年数のランキングで40位に相当するからだ(英語記事)。しかし、会社に長く留まっている従業員はローパフォーマーであり、ハイパフォーマーが短期で離職しているとしたら、本当に良い数字だといえるだろうか。

 2013年の夏、我々SAPはオックスフォード・エコノミクス(オックスフォード大学と提携するコンサルティング企業)と共同で、就業者が今後望むことについて27カ国にまたがる調査を行った(Workforce 2020)。経営幹部と従業員の双方を対象にしたこの調査では、直近の人事考課で従業員が得た評価について尋ねている。2872人の従業員のうち、ハイパフォーマーだと評価された人は約40%、平均的パフォーマーが約40%、平均以下が約20%であった。

 ご想像どおり、ハイパフォーマーという評価を得た人は、平均以下とされた人々に比べれば自身の仕事に満足しており、今後半年以内の離職を考えている割合は相対的に低い。ところが、ハイパフォーマーのみを詳しく見てみると、数字はそれほど望ましいものではない。ハイパフォーマーの5人に1人が、今後半年以内に離職する可能性が高いと考えている(従業員全体では4人に1人)。そしてハイパフォーマーの中で仕事に満足している人は50%未満という結果であった。

 したがって人材戦略では、ハイパフォーマーの定着率を改善すべく尽力する必要があるのだ。そして我々の調査では、注視に値し、かつ憂慮すべき発見があった。ハイパフォーマーは必要なものを経営者から与えられていないと思われる。

 次の図は、従業員が総じて職場で何を重んじるかを示している。

 すべての従業員にとって、仕事の満足度を最も左右する要素は基本給で、次が賞与であった。そしてハイパフォーマーは、平均やそれ以下の人と比べこの2つをはるかに重視していた。勤続年数に基づく給与、あるいは成果の優劣がほとんど反映されない報酬制度は、ハイパフォーマーの離職を促す最大の要因だ。一般的な昇給率は2%から6%だが、労働市場にたくさんの選択肢があるハイパフォーマーを現職につなぎ留めるには決して十分とはいえない。