「団塊の世代」はもはやひと塊の世代ではない

――マッキンゼーを定年で辞め人生をリセットされた横山さんは、自由に活動されています。定年後に誰もがそうできるわけではないとすると、超高齢化社会のシステム・デザインはどう組み立てたらよいのでしょうか。

 今年、2015年から、団塊の世代が65歳に突入していきます。この後、25年に向けて急速に高齢化が進んでいきます。まさに超高齢化社会を日本は進んでいくわけです。

 2025年には団塊の世代が75歳以上となるため、4人に1人が75歳以上という超高齢社会が到来します。さすがに75歳を過ぎると身体能力がだんだんと落ち始めます。医療を含めた社会保障費が膨れ上がるでしょう。それを支える財政が大変なことになるというのが、よくいわれる2025年問題ですよね。

 25年を境に、75歳以上人口は2200万人超で高止まりします。一方、現役世代(15歳~64歳)は減少してしまうので、現役世代の負担はどんどん大きくなって支えられなくなるという。

 でも、最初に言いましたが、それは現象面だけをとらえた議論です。そういう議論をする前に、まず団塊の世代をよく見てみるべきだと、私は思うのです。

――どういうことでしょうか。

 人生に成功したとか、失敗したとか、日本ではあまり大きな問題とされていませんが、アメリカでは、高齢者は人生でどれだけの成功を手にしているかという評価軸で、セグメンテーションが行われているということです。競争社会であるアメリカらしいといえます。

 日本での高齢者セグメンテーションは家族団らん派、屋外活動派、社会貢献派などというように、人生での成功度合への関心が高くないのですが、とはいえ、団塊の世代と一言でいうけれども、20代の若者だった頃の団塊の世代はひと塊でいえたかもしれないが、60代の団塊の世代にはそれなりに貧富の差があります。当たり前のことです。

 金持ちになった人もいれば、そうでもない人もいる。数が多いだけに、いろいろな人がいて、もはや団塊世代というひと塊の表現が意味を持たなくなっているのです。

世代内互助の新たなコミュニティを創出するには

――その人たちが、日本のコミュニティの存続において大きな影響力を持っているのですね。

 いずれにしても、若い世代が高齢の世代を30年にわたって支えるという仕組みは、もつわけありません。これまでの経済成長追求の過程で失ったコミュニティを再建するのであれば、発想を大きく転換し、昔にはある程度あったかもしれない、豊かな高齢者が、貧しい高齢者を助ける互助的なコミュニティをつくらなければなりません。

 昔のような地縁的なコミュニティを再興しようということとは違うのですが、互助会的なコミュニティ感覚をつくり出し、育てていくことです。

 日本国政府は借金まみれですが、日本人という個人は総体として豊かです。1700兆円もの家計の金融資産があるんですよ。しかも、その資産の計算には、1000兆円以上あると思われる不動産は入っていません。ものすごくお金持ちなのです、日本人は。

「グレーター東京メトロポリタンエリア(GTMA)」と私が名づけている地域(首都圏とは定義が違う)の人口は4000万人を超えていて、GDPと個人の金融資産は、フランス一国と肩を並べるくらいの規模があります。その7割くらいの部分をシニア世代が所有しているのです。ですから、世代内での互助は十分に成り立つはずです。

――そのような新しい互助的コミュニティを創出していくうえで、必要なことは何でしょうか。

 それは新しい帰属意識、センス・オブ・ビロンギングの醸成ですね。地縁も希薄、そのうえ、定年後は社縁からも離れてしまうわけですから、どこかに帰属している意識を絶たれてしまう。不安になりますよね。

 特にいまの時代、主婦はセンス・オブ・ビロンギングを失っているでしょう。大学を卒業して、OLとして社会人スタートして、結婚して退職し、子育てにかまけて時間を過ごし、40代に子どもが手を離れ始めると、自分がどこかに帰属しているという意識はぷっつりと切れてもとに戻ることが難しいという状況に直面していることに気がつきます。

 何に属しているのかわからない状態、そういう状態が40代から90代まで50年という長い期間にわたって続く主婦の人生の実体は、まったく研究がされていませんね。カルチャーセンターが流行したり、テニスが流行ったり、いろいろありましたが、センス・オブ・ビロンギングを与えてくれるわけでもなく、一時の流行で長続きしない。

――いまはボランティア活動でしょうか。

 高学歴で、子育てもしっかりやってきた主婦の人たちにこそ、リセット後には、責任感を持って、みずから納得できるコミュニティに属している、もっと進んで、そういうコミュニティを主婦の連携でつくり出すという感覚を持って活動を広げてほしいと思います。テーマは環境、観光、医療、介護とたくさんあります。そういうセンス・オブ・ビロンギングを、社会の中につくり出す仕掛けも社会システム・デザインの一面です。

 新しい互助的コミュニティの紐帯になるのは、彼女たちかもしれません。

(構成・文/田中順子)