組織デザインとは何か
組織図を描くことでは断じてない

 日本に帰ってきて、経営コンサルタントとして企業の戦略立案とともにその執行体制としての組織デザインに関わるようになり、組織という目に見えなくて、手で触ることもできないもののデザインをするための新しい方法論をつくり出す際、これらの考え方が役に立ちました。

 組織のデザインも、古典的な発想ともいえる、「箱」の集合としてのマスタープラン的な組織図を描くことではなく、組織を多数のオペレーティング・システムの重層的な集合体をデザインすることです。その中で重要なシステムは「意思決定システム」「モニター・業績評価システム」「人材育成・配置システム」の3つでしょう。

 ブラジルのブラジリアやオーストラリアのキャンベラのように都市そのものをゼロからデザインするなどという機会はほとんどないように、企業の組織も、大組織をゼロからデザインするといった仕事はほぼないのです。多くは既存の都市を改善するように、既存の組織をつくりかえるのがほとんどです。

 そういう現実的状況でできることは、すでにある組織を構成するシステムの中で、悪循環をつくり出している要因を探し出し、そこを集中してデザインし、大きな循環のバランスを少しずつ変えて良循環をつくり出していくことです。

――マスタープランに対する、ミニプランですね。

 そうです。いまでも多くの組織がやっているのですが、組織図を描いたり組織の箱をつくったりすることが組織デザインだといった考え方では、ダイナミックなオペレーティング・システムとしての組織づくりはできません。

 企業をハードウェアとするならば、組織デザインはそれを駆動するオペレーティング・システムのソフトウェアをデザインすることです。その良し悪しでパフォーマンスは大きく違ってくるのです。

 問題はハードではなく、ソフトのデザインにあるのだと、そういう発想で、コンサルタント時代いろいろな組織問題に取り組んできましたが、幸いにも二ケタの数の組織デザインをすることができました。

――ハードは立派だけれども、ソフトが伴っていないという例はたくさんありますね。

 バブルの時期に、日本全国に立派な病院が建てられました。しかし、それで日本の医療の質がよくなったとは思えません。

 当時、私の周りにも病院建築をやっている人がたくさんいました。すごい病院ができたというので実際に行ってみると、たしかに建物は立派だが、中身、すなわちOSが伴っていないというところばかりでした。病院を運営する仕組み、すなわちOSは、古い病院の時代と同じであったり、OSを十分練り上げていないまま情報システムを導入して混乱していました。立派な病院を建設したのであれば、それを活かすためにOSも一新するデザインをすることからスタートしなければならないのに、それが行なわれていなかったわけです。

 もっとも、革新的な病院システムという場合、OSをデザインするには、孤立した一病院ということではなく、その病院が置かれている文脈の中で考えないといけないでしょう。ということは、その病院を含む地域全体や、国の医療システムのデザインにまで範囲を拡げて考えなければなりません。

(構成・文/田中順子)