リバース・イノベーションが
なかなか浸透しない理由

 欧米の多国籍企業は、ゆっくりだが着々と気づき始めている。発展途上国で製品やサービスを設計し、グローバル向けに微調整を加えてから、先進国に輸出するのが得策かもしれない、と。このプロセスは、先進国で最初にモノづくりを行うこれまでのアプローチとは逆方向なので「リバース・イノベーション」と呼ばれる。これによって、企業は先進国と途上国の両方のよい所取りが可能になる。リバース・イノベーションが最初に論じられたのが、本稿の筆者の一人であるビジャイ・ゴビンダラジャンが6年前に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表した共著論文である("How GE Is Disrupting Itself," HBR, October 2009.[注1]を参照)。

 しかし、リバース・イノベーションという動かしようのない論理があるにもかかわらず、新興国市場で製品を生み出し世界中で販売しているのは、コカ・コーラ、ゼネラル・エレクトリック、ハーマンインターナショナル、ネスレ、ペプシコ、プロクター・アンド・ギャンブル、ルノー、リーバイ・ストラウスなど、ごく少数の多国籍企業にすぎない。インドのジェイン灌漑システム、マヒンドラ・アンド・マヒンドラ、タタ・グループといった新興国の巨人でさえ、両タイプの市場でヒットする製品やサービスをつくり出すのに手を焼いてきた。

 我々は、多国籍企業が着手したリバース・イノベーションのプロジェクトを分析することでこの課題に取り組んできており、今年(2015年)で3年目になる。我々の研究によれば、新興国市場特有の経済的、社会的、技術的な背景を見誤っているせいで問題が生じているようだ。ほとんどの欧米企業の製品開発担当者は、これまで自分たちと似た人々を対象に製品やサービスをつくってきており、消費パターンやテクノロジーの活用、ステータスの認識が大きく異なる新興国市場の消費者を、本能的に理解できない。経営幹部たちは新興国市場の制約条件を克服する方法、もしくは、途上国ならではの自由な発想を巧みに活かす方法をなかなか見極められないでいる。彼らは前進させる方法を見出せず、リバース・イノベーションを首尾よく展開するうえで妨げとなる観念的な落とし穴にはまる傾向があるのだ。