GPSデータでわかったベテラン・ドライバーの走行ルート

――企業のビッグデータの利活用の現状はいかがですか。

 ある調査によれば、ビッグデータを活用している日本企業は6%程度だそうです。一方でビッグデータに関する認知度は9割以上に上ります。ビッグデータの重要性はわかっているが、何に使ってよいのかわからないという状況だと考えられます。

 欧米では、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)をはじめデータ分析専門家の取締役がいることが当たり前になりつつあります。それに対して日本企業には、そのような決定権を持った専門家がいません。そもそもデータ分析の専門家、データサイエンティストがほとんどいません。

 最近は、商社などで、博士課程を修了したけれど、大学への就職口が見つからない人材をデータサイエンティストとして育てるために採用する動きが強まっているようです。各企業でデータ分析ができる人が増えていけば、ビッグデータの利活用は進むと思います。

――欧米の先進的活用事例には、どのようなものがありますか。

 ゼネラル・エレクトリック(GE)のタービン監視システムが有名です。GEは一つのタービンに「1秒間に1000回レコードを吐き出すセンサー」を10個も取りつけています。こんなに大量に記録すれば、コストばかりが膨大にかかりそうに思えますが、実際には、20%もコストダウンを図れたそうです。細かく記録を取れば、AIによる機械学習などが可能になり、不具合を発見したり、間もなくどこが壊れるといった未来を予想できるようになります。実際に壊れる前に、こうしたことがわかれば、コストは大幅に下がるそうです。

――日本企業は、ビッグデータを集めたけれど利活用の方法がわからないのでしょうか。それとも、そもそもどんなデータを集めればいいのかわからないのですか。

 両方あると思います。なかには「データなんてない」とおっしゃる企業もあります。しかし、ビジネスをしている限り、データは必ずあります。実際、データがないとおっしゃった企業で分析すると面白い結果が出ました。

 あるタクシー会社で、GPSを使って給与が高い人と低い人の走り方を分析したのです。わかりやすいように給与が低い人は赤線、高い人は白線で地図上に表示しました。すると成田や羽田に向かう道は真っ赤。都心には白い線が集まっていました。つまり給与が低い人は長距離を狙い、給与が高い人は、都心でワンメーター、ツーメーターの近距離のお客さんを乗せていたわけです。

 一般に、タクシーは長距離の人を乗せれば儲かるといわれています。だから長距離のお客さんを業界では「おばけ」などと呼ぶわけです。しかし、実際に分析すれば、長距離を走っているのはもっぱら給与が低い人たちばかり。ベテランドライバーは、長距離は儲からないと知っているのに黙っているのかもしれません。いずれにせよ、ビッグデータを使うことで業界の言い伝えが間違っていることを即座に証明してしまいました。もちろん、GPSだけではわかりませんでした。GPSで集めたビッグデータに給与という違うデータを組み合わせたことで発見できたわけです。新しい価値が生まれたと言い換えてもいいでしょう。