「やっかいな問題(ウィキッド・プロブレム)」に戦略は無力である

 私は過去15年以上にわたり、戦略はどのように生み出されるのか──これは経営者にとって最も重要な仕事である──について研究し続けてきた。

 戦略プランニングは、トップの指示の下、マクロ経済の予測に基づいて年に一度実施されてきたが、多くの企業がこれをより高度なプロセスに改めつつある。つまり、大量の顧客データを分析し、立案会議を頻繁に繰り返し、またコンピテンシー・モデルやリアル・オプション分析といった手法を駆使するようになった。

 このアプローチは、顧客と自社のケイパビリティを重視しているだけでなく、戦略をすばやく修正できる。したがって、まさしく改善されたといえるが、それでもミスを犯してしまうことが多い。

 この方法では、概して複雑さが無視される。ますます複雑化していく事業環境をモデル化できない。その結果、一大問題に直面し、これに対処しようにも、最近の戦略立案プロセスはあまり役に立たない。

 実際、次のように感じているCEOが少なくない。この直面している一大問題を解決するために、さらにデータを収集し、問題をより具体的に把握し、これを分解しても、やはり解決には至らない──。

 現在の戦略プランニング手法から斬新なアイデアは生まれてこない。そして、そのプロセスのなかで出てきた解決策も、社内政治的に見てリスクが高い。私が思うに、その理由は、戦略上の問題は単に困難で、長期的なだけでなく、一筋縄ではいかない「やっかいな問題(ウィキッド・プロブレム)」だからであろう。

 やっかいであることは、難度が高いことを意味しない。元カリフォルニア大学バークレー校教授で設計科学を専門とするホースト・ウィルヘルム J. リッテルと、同じく同校教授で都市計画を専門とするメルビン M. ウェバーが1973年に『ポリシー・サイエンシズ』誌に発表した論文によれば、やっかいな問題とは、従来の手順では解決できないのがその特徴である。

 後に詳しく説明するが、やっかいな問題の原因は無数にあり、言葉で説明することが難しく、また正解がない。その典型例が、地球環境問題、テロリズム、貧困などである。いずれも、一般的な難問の対極に位置づけられる。