グローバルリーダー育成プログラムは、一般的に6つの要素で構成されることが多い。第2回では2社の事例を用いて、実際に企業がどのようなプログラムを組み、人材を育てているのか考える。
事例で考えるグローバル・ビジネスリーダーの育成

大滝 令嗣(おおたき・れいじ)
前回の掲載では、GBL(グローバル・ビジネスリーダー)育成プログラムが一般的に①社内ネットワーキング、②基本経営知識(ミニMBA)、③企業理念、④自社戦略、⑤アクションラーニング、⑥リーダーシップ開発、という6つのモジュールで構成されることを述べた。今回は、日本企業のGBL育成についてより理解を深めるために、6つのモジュールの中で具体的にどのようなプログラムがあるのかを紹介したいと思う。
事例1(大手電機メーカーN社)
事例1は、大手電機メーカーN社の多国籍マネジャーを対象としたGBLプログラムである。このプログラムは、全2回、計7日間で、主として②基礎経営知識、③企業理念、⑥リーダーシップ開発の3つのモジュールによって構成されている。
②基礎経営知識のモジュールについては外部講師に依頼し、競争戦略や財務会計について学習する。N社では、海外でのM&Aでグループ傘下に入った企業からの幹部参加者も多く、MBA取得者も少なくないため、初歩的な講義に偏り過ぎると不満がでる。一方で難易度の高い講義にはアジアの生産拠点からの幹部参加者がついていけないという問題もあるため、4時間の講義のテーマをどう設定するかが大変難しい。そこで外部講師と事前の打ち合わせをしっかり行った上で、業界の最新テーマを中心に取り上げ、理論面と実践面の話を織り交ぜることでセッションを運営している。
N社が特に力を入れているのは、モジュールの③企業理念の浸透である。創業者がつくり、現在に至るまで脈々と引き継がれている企業理念を全世界の社員に徹底して伝えていく、というのがこの会社の方針だ。企業理念は主要な言語に翻訳され、あらゆる機会に海外スタッフにも伝えられているが、ポスターや小冊子を配布するだけでは海外スタッフに十分に理解されていない。
そこで、N社ではGBL育成プログラムの中で時間をかけてマネジャーへの理念浸透を図っている。セッションはビデオを使った社史の講義に始まり、実際に創業者と働いた経験のあるOB社員たちを招いて、彼らの口から直接、創業時の逸話や創業者の人となりについて語ってもらう。同時通訳を使ったセッションだが、創業者や会社の生い立ちについて、先輩たちから直接話を聞くことは貴重な体験だ。質疑応答も活発で、多くの参加者が興味を持って臨んでいる。こういった場を見ていると、異なる文化、社会、宗教、価値観を背景に育った海外の社員たちでも、同じ会社の一員として企業理念に共鳴することは十分に可能だと思う。