企業文化のメカニズム、後編。前編では、従業員のパフォーマンスを決定づける「トータルモチベーション」とは何かを紹介した(プラスの動機:楽しみ、意義、可能性。マイナスの動機:感情的圧力、経済的圧力、惰性)。これらを座標軸として社内の制度・プロセスを変えていけば、おのずと優れた文化の構築につながる。

 

組織内のどんなプロセスが文化に影響を及ぼすのか

 これまで我々は数多くのマネジャーに、「高いパフォーマンスを生む企業文化」とはどんなものかを尋ねてきたが、ほとんどの人はうまく説明できなかった。そこで我々なりの定義を示そう。

 企業文化とは、従業員のトータルモチベーション(ToMo)に影響を与える社内の一連のプロセスを指す。高パフォーマンスの文化が根付いていると、それらのプロセスがトータルモチベーションを最大化する。さまざまなプロセスが従業員のToMoにどう影響するかを調査したところ、次のようなことがわかった。

 ●1つのプロセスを改善しても効果はない

 多くのプロセスが、従業員のトータルモチベーションに影響を与えている。我々は数千人に及ぶ米就労者を対象に、職場のさまざまな要素(職務・役割の設計から業績考課に至るまで)が、どの程度ToMoに影響を及ぼすかを調査した。

 多くの人は、従業員のモチベーションを最も左右するのはリーダーシップだと考えがちだ。ところが上図を見ると、他のいくつかのプロセスはもっと大きく影響する場合がある。グラフの横軸はトータルモチベーションの値を表している(-100~+100)。グレーのバーは、アンケート調査の結果を基に、各プロセスが従業員のToMoに与える影響の範囲を示している。

 たとえば「職務・役割の設計」の巧拙は、ToMoに87ポイントもの違いをもたらす。稚拙な場合はマイナス40前後まで落ち込むが、優れていると50近くまで上がる。この差はきわめて大きい。なぜならさまざまな業界で、文化が最も評価されている会社のToMoは競合企業を15ポイントほど上回っているにすぎないからだ。

 一部の企業は、職務・役割のモチベーションを高めるために特別な取り組みをしている。たとえばトヨタは、組み立てラインの従業員に新しいツールやアイデアを考えたり試したりする機会を与え、楽しみの動機を高めている。ゴアテックスで知られるW. L. ゴア&アソシエーツでは、従業員に新しいアイデアを考えるための自由時間とリソースを与えている。サウスウエスト航空では、顧客とのやり取りに楽しさを加えるよう奨励されている。同社の客室乗務員が、退屈な機内放送をコメディ仕立ての愉快なトークにしているのを目にした読者もいるのではなかろうか。

 次に影響力の大きい要素は、「組織のアイデンティティ」だ。これには自社のミッションや行動規範も含まれる。たとえばメドトロニックでは、エンジニアや技術者に、自分たちがつくった医療機器が実際に使われている場面を見せ、仕事の意義を理解させようとしている(自社製品が使われる治療現場の3分の2以上に、同社の誰かしらが立ち会っているという)。

 製薬会社ユーシービーの最高人材責任者の話によると、最近では、同社の幹部会議に患者を招待しているという。意思決定権のある幹部に、自分たちの仕事がどう患者に貢献しているか知ってもらうためだ。ウォルマートの某幹部はある時、経営会議の冒頭で、自社がどれだけ儲けたかを発表する代わりに、自分の部署が顧客のお金をどれだけ節約できたかを述べたそうだ。

 3つ目に影響力が大きいのは「昇進」のあり方だ。昨今では多くの企業は、昇進プロセスを左右してきた既存の人事評価制度が、従業員のパフォーマンスを阻害すると考えている。スタックランキング制度(相対評価、強制的ランク付け)は感情的・経済的な圧力を高め、トータルモチベーションを減退させ、ひいてはパフォーマンスを低下させる。そのため、マイクロソフトやリア(自動車部品メーカー)は不健全な競争をあおる評価制度を廃止した。

 ●文化とは生態系(エコシステム)である

 企業文化を構成する諸要素は、相互に作用し補完する関係にある。販売報奨金もその一例だ。営業成績に応じたインセンティブは一般的に、従業員のトータルモチベーションを下げることがわかっている(経済的圧力)。ところが、従業員が「自分の仕事は顧客にとって非常に有益だ」という強い意義を感じている場合、報奨金はToMoを上げることになるのだ。

 自分の仕事に信念を持てない場合、報奨金のみが動機となるため、ToMoは下がる。反対に信念があれば、報奨金は自分の成長の目安になったり、楽しみの要素にもなるかもしれない。それがToMoを向上させるのだ。