-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
意思決定を下すために、経営者ほど思考を重ねる必要性のある仕事はない。その一方で、常に多忙で、時間に追われるものである。そんな経営者は、考える時間をいかに確保しているのか。毎回、さまざまな経営者に、思考の時間について伺う。第1回は、LIXILグループの藤森義明氏。(構成/新田匡央、写真/引地信彦)
第三者と「考えをシェアする時間」をつくる
編集長・岩佐(以下色文字):経営者は一般的に、朝から晩まで誰かが側にいるものです。藤森さんは、1日のうちひとりで考える時間を意識的に確保されていますか。
藤森氏(以下略):わざわざ考える時間を確保することはありません。仕事に関することは途切れることなく頭に浮かんでくるので、常に考えている状態が続いているからです。
朝起きてシャワーを浴びているとき、クルマに乗って移動しているとき、飛行機に乗って出張しているとき、急に時間が空いたとき。毎日、朝起きてから夜寝るまで、ほんの短い時間でも何かしら考えています。
仕事のことばかり考えていていいのだろうか。
そんなふうに不安に思った時期もありました。仕事から離れるためにゴルフをしてみても、グリーン上でパッティングを待っている間に仕事のことを考えてしまうのです。そんな思いを抱えているころ、以前私がいたGEのジェフリー・イメルトCEOと会う機会がありました。立ち話でしたが、世間話がてらこんな話をしてみました。
「僕たち経営者ってさあ、朝起きてシャワーを浴びているときから、夜ベッドに入って眠りに落ちるまで、ずっと仕事のことを考えているよな」
私の問いかけに、イメルトもこう言っていました。
「ああ、そうだな。俺もいつも考えているよ」
ジェフ(イメルト)も自分と同じなんだ。その言葉を聞いて、ほっとしたことを覚えています。
平日はそうかもしれませんが、土日は仕事から離れるんですよね。
仕事のことは常に考えていると言いましたが、常に頭をよぎると言ったほうが正確かもしれません。市場動向、経済指標、世界の環境変化などは常に入ってくるので、それに対して戦略、組織、競合の動きなどについて思考がめぐる感覚です。仕事のことを考えようとして考えているのではありません。
人によっては、朝起きて1時間座禅を組んで考える、サウナに入って考えるなど、あえて自分ひとりの時間をつくり、精神を統一して考える人もいるでしょう。でも、私はそういうことはしません。平日、休日の区切りがあるわけでもなく、1日のうちでも「今日は2時から3時まで仕事のことを考えるぞ」と区切るわけでもありません。
寝る前に考える時間を取る経営者もいます。
寝る前にも取らないですね。というか、ずっと考えがめぐっているので、意識的に考える時間を取る必然性がないのです。ただし、こういうことはしますね。自分ひとり考えているだけでは思考がぐるぐるめぐっているだけにすぎないので、どこかの段階で自分の考えをまとめる時間を取ります。その時間は「思考をデザインする時間」として、意識的に確保するようにしています。思考の内容や仕事の質との兼ね合いによってタイミングは違うでしょうが、自分の思考をまとめる時間は取るべきだと思います。
よくわかります。具体的に、その時間はどんなことをするのですか。
頭の中でめぐっている考えを自分だけでまとめるのではなく、周囲にいる人とシェアするのです。たとえば1週間後、あるいは今週中。思考がめぐってある程度煮詰まったと思ったら、できるだけ早い段階で1時間程度、シェアする時間をつくりますね。そのプロセスを経ることで、私は自分の考えが磨かれると思っています。
頭の中でめぐっているものを、いろいろな人から叩いてもらうのですね。
そういうプロセスですね。シェアする時間を設定することのメリットは、自分の考えが磨かれることだけではありません。設定したからには、ほかの人に自分の考えを表現する必要があります。表現するためには、人はより深く考えるようになっていきます。自分の考えをまとめるプロセスに、自然に入っていくのです。そして、表現した考えに対して第三者の意見や情報を得て、また思考を呼び戻して自分の頭で考えていく。これが、考えを磨くプロセスにつながっていくのです。
一般的に、経営者は孤独で、意思決定は経営者ひとりで下さなければならないと言われています。でも藤森さんは、シェアするプロセスを経て意思決定されるのですね。
その通りです。ずっとひとりで考えていても、多くの場合、堂々めぐりにしかならないからです。同じことばかり考えていても、その考えが良くならないことは誰でも知っています。ある時点で考えをまとめて表現し、フィードバックを受け、それをベースに再び自分の頭で納得するまで考えを固めていく。そんなプロセスが必要だと思っているのです。
発想を豊かにするには、常に新鮮であるべきです。藤森さんがマンネリに陥らないのは、人とシェアする段階を踏むからなのですね。
おっしゃる通りです。私の頭が最も動いているのは、人と話をしているときだと思います。あるいは会議や講演で、人の話を聞いているときに頭の中が活発に動いているような気がします。
刺激されるのですね。
そうです。思考にとって刺激は重要で、刺激の範囲をどこまで増やせるかがものを言います。若い人には、とにかくさまざまな分野のすごい人の話を聞きに行けと言っています。同じ人と同じ生活をしていると、その範囲でしか頭は回転しません。しかし頭が刺激されると、自分の思考も活性化するのです。GEのジャック・ウェルチも新しい材料を求めて、世界数十ヵ国を回っていました。自分の頭を刺激するようなことを、自分から範囲を広げて獲得していく。そうすると、頭がリフレッシュされて思考も動いていくようになりますね。