今月号のハーバード・ビジネス・レビューでは、「組織の本音」を特集しました。制度や仕組みだけで人は動かない。感情をもった人の集まりである組織の問題に向き合うことを提唱したいと思いました。

 印象的だったのは、ポリゴン・ピクチュアズ社長の塩田周三さんのインタビューでした。同社はアニメ制作会社で、いまでは3Dアニメの世界的企業として知られています。従業員も300人。クリエイティブな人材を見事に組織として力を発揮させています。その塩田さんは、「まだ課題が多い」と何度も口にします。自分のやり方が間違っていないのか。自分の思いは社員に伝わっているのか。弊誌のインタビューに出ることも躊躇されたそうで、実際にインタビュー中も何度も自分の組織運営について自問されています。

 この塩田さんのお話を伺い、なんて誠実な方なんだろうと感動しました。社員の方々ときちんと向き合っている。誤魔化して「トップとしてやるべきことをやっている」と開き直らないし、「悪い話も聞こえてこない」とも決して思っておられない。クリエイティブな製品を生み出す企業として、素晴らしい組織運営をしていると外から見られていても、内部にいる自分だからこそ問題があることが分かると明言されます。

 競争戦略論では、形式知できない「知」ほど、他社が模倣困難で持続的な競争優位を築くと言われます。同様に、組織の問題も表面に表れないものこそ重要性の高い問題であり、その見えない課題からけっして目を逸らせてはならないのです。組織を建前で語るのではなく本音で語ることを特集テーマにしましたが、登場いただいたポリゴンの塩田さんにその重要性を腹落ちするまで教えていただきました。(編集長・岩佐文夫)