ビジネスパーソンにとって社内政治力は不可避であり、1つのスキルとして修得すべきとする考え方がある。一方でフェイスブックのように、そもそも社内政治を生まないよう意識して体制と制度を築いている会社もある。同社幹部のジェイ・パリーク氏が、その方法論を示す。
従業員の個人的な動機が全社的な目標よりも優先されると、企業の遂行能力は損なわれる。
当社フェイスブックでは創業最初期から、職場での駆け引きに仕事が毒されることがないよう意識している。特定の政治的な振る舞いが職場で知らぬ間に生まれることで、いかに悪影響が及ぶか。それを(他社で)目にしてきた我々は、自社をその二の舞にはしたくなかったのだ。
人間の本性は完全に変えられる、と考えるほど我々はナイーブではない。人がいるところには、考慮すべきさまざまな思いや感情があり、政治が生まれるものだ。しかし社内でのコミュニケーションのあり方に思慮深く対処すれば、有害な社内政治などものともしない組織文化を形成できる。
我々は、フェイスブックの文化を健全で生産的なものに保つうえで特に有効な、5つの方策を見出してきた。
1.支配主義者、自己完結者、不平屋を採用プロセスで見つけ、雇わないようにする
どの企業も、候補者をスキルセットと経験に応じて選抜する。可能な限り優秀で頭脳明晰な人材を見つけて雇いたいのは、誰しも同じだ。当社ではそこにさらなる要件を設けている。チームで働く環境に適応する能力だ。それを測るために、以下のようなせりふを用いる。
「リーダーとしてのあなたの責任を、説明してみてください」
「あなたは誰かのキャリアを本質的に向上させたことがありますか。4人ほど挙げ、教えてください」
「あなたの会社の同僚2~3人について、説明してみてください。あなたとの関係も教えてください」
「あなたが職場で最高の日を過ごしたのは、何をした時ですか」
「あなたにとって、社内政治とは何を意味しますか。それは自分の仕事だと考えますか」
「あなたがリーダーを務め、失敗に終わったプロジェクトについて教えてください。失敗の理由と、そこから学んだことは何でしょうか」
面接担当者はこうした問いを対話のきっかけとして、追加の質問をしていく。採用されるべき候補者は、優先順位が「会社、チーム、自分」の順番であることがはっきり表れる人だ。そのような人材は、会社の使命を自身の関心事より上位に置き、他者の模範となる可能性が高い。
2.「上を目指す」ことがインセンティブにならないようにする
マネジメント職が最終ゴールではない場合、その地位をめぐって争われることもあまりない。ほとんどの人にとって「成功」とは、高い肩書とともに大きな仕事を得た時に手に入るものだ。昇進していなければ、成長していないのと同じだと考えられている。
しかしフェイスブックでは、マネジメントへの異動は昇進ではない。水平的・並行的なキャリアパスである。マネジャーの存在理由は、業務遂行のために従業員をサポートして障壁を取り除くことにある。マネジャーが注力するのは、優れたチームを築くこと、そのチームが目標を遂行するうえで指針となるビジョンを確立すること、そして、チームメンバーがキャリアの途上で能力を伸ばせるよう支援することである。
当社でマネジャーがその職に就いている理由は、対人スキルに優れているからであり、チームにやるべきことを指示するためではない。この視点は非常に徹底されており、一部のマネジャーたちは「私のチーム」のように言うことをやめ、「私がサポートするチーム」などの言い方を選んでいるほどだ。
こうしたやり方に慣れていない人は、「ならば誰が責任者になるのか」と問うだろう。『蠅の王』のような混乱と闘争を危惧する人のために説明すると、マネジャーはたしかに介入、舵取り、意見が割れた時の最終決定をする。
しかし、非管理職者(individual contributor:IC)は戦略の責任者になるべきではない、という考え方は当社にはない。適切な人材を雇っていれば、非管理職者はマネジャーにチームの目標と方向性を示す適任者となるはずだ。さらなる効果として、自身のアイデアが採用された非管理職者は、上司からそれを与えられた場合よりもそれをうまく実行する可能性がはるかに高い。
それでもマネジャーは当然ながら、非管理職者にキャリア上の挑戦の手段と、非管理職のままでも成長できる機会を提供しなくてはならない。そのために我々は、従業員が新規プロジェクトや新しいグループに興味を持てば、いつでもそこに参加できるよう後押ししている。プロジェクトのさまざまな進行段階に途中から加われることで、彼らは専門分野を広げることができ、職能の拡大または絞り込みを図れる。これが従業員エンゲージメントにもつながるのだ。
業務の完全な変更ではなく、短期間だけ中断したいという要望に対しては、「ハッカマンス(hackamonth)」というものがある。非管理職者は1ヵ月間、特定のプロジェクトに取り組む別のチームを手伝ってよいとする制度だ。こうした移動の自由によって、チームに「カビが生える」のを防ぐことができ、人材の保持にもつながる。
結局のところ、有能な人材には成長を促し続けなければ、彼らは他社に新たな機会を求めるようになるのだ。