IT活用の優先度低い日本のCxO
――サービスサイエンス、サービスデザインが脚光を浴びている背景には、経済のサービス化や製造業のサービス化の進展などがあります。企業はいま、どのような課題に直面していますか。
ある調査によると、顧客との連携が収益の源泉になると考える企業が増えており、高業績企業ほど顧客との連携を重視する傾向にあります。顧客が言ったことをそのまま実行せよというわけではありませんが、顧客を観察し、インサイトを得て、ビジネスを変革することが重要です。顧客の変化を踏まえて、CxOが今後3~5年間で優先度を上げると答えた項目のトップが「顧客体験の変革」で、「eコマース」「人材マネジメント」が続きます。
顧客体験の変革とは、まさしくサービスデザインであり、それを電子的にやるのがeコマースですし、そのためには人材を育てていかないといけないことを、グローバルのCxOは理解しています。しかしながら、日本だけで統計を取ると、そうはなっていません。特にeコマース、人材マネジメントの重要度が低い水準に留まっています。
それ以上に問題なのは、「ITシステムおよび運用」の優先度が最下位に位置することです。ITをうまく活用して新しいサービスを提供しようというマネジメント層の意識が圧倒的に低いのです。一方でIT人材の不足を課題に挙げながら、人材育成に対する具体的なアクションが少ないのが現状です。IT化、テクノロジーの活用はトップマネジメントのアカウンタビリティです。IT部門に任せっきり、他人事では決して進みません。
――トップ自らがIT化、IoT化に率先して取り組み、サービスをデザインしたり、経営を変革した好事例はありますか。
低価格・短時間の散髪サービスを提供するQBハウスがあります。カット10分1000円というのは、まさしくIoTだったのです。顧客が券売機でチケットを買うと、どの店舗でチケットを買ったのか、本部にデータが送られます。自分の順番が来て座席に着くと、どの席に座ったのかもデータを取ります。スタイリストがはさみを持ってカットを始めると時計が動き、カットが終わると、顧客ごとにかかった時間もわかる仕組みです。平均カット時間が10分以上かかっている場合は、原因を分析し、たとえば、苦手なスタイルがあるとわかれば、カット技術の研修を行います。スタイリストにとって、時間を計られることは不幸なことではなくて、スキルアップのためのアドバイスをもらい、パフォーマンスを絶えず見てもらうことで給料アップにもつながるという、いい仕組みです。
QBハウスを展開するキュービーネットの北野泰男社長のそばには、5人のITアーキテクトがいて、「こんなことができないか」と社長がつぶやくと、彼らが提案を持ってくるそうです。驚いたことに、同社のIT開発費は売上高の10%にも上ります。典型的なサービス業と思われているところにも、IoT、ビッグデータ活用でイノベーションは生まれているのです。