競合他社ともつながり、新たな顧客価値創出を

――経済産業省の「攻めのIT経営銘柄」では、銘柄選定委員を務めるとともに、評価指標の策定にも携わっています。改めて、企業経営におけるIT活用の重要性と、CxOが果たすべき役割について伺います。

 攻めのIT経営のアンケート調査をつくった時に、絶対必要だと思ったのが、「社長がITを使っていますか?」という質問項目です。やはり、ITを自分で使って享受していないと、その次のステップが見えてこない。それが、前述のアカウンタビリティ、自分事でITを考えるということでもあります。

 ITは第2の産業革命をもたらすといわれています。なぜなら、ITは汎用技術(General Purpose Technology)であり、「新しいアイデアや技術のなかで多くの産業分野に重要なインパクトを与える可能性を秘めた裾野の広いもの」だからです。18世紀半ばの産業革命では、ワットが発明した蒸気機関で人の運動労力を機械に置き換える革命が起きました。第2の産業革命では、情報技術で産業同士をつなげるということが、いままさに起きています。新しい汎用技術、ITによって自分たちの産業をどことつなげていくか、どう広げていくかを考えるのは、まさしく経営者の仕事ですよね。

 いままで企業の戦略というと、企業グループ内で小さく考えられていたかもしれませんが、ITによって企業のエコシステムのなかでつながりが広がっていけば、顧客に対して新たな価値を提供することが可能になるでしょう。たとえば、病院やスポーツジムなど、自分のヘルスケアに関するデータをすべてつなげることができれば、新しい価値になります。場合によっては、競合他社ともつながることでデータを活用することができれば、企業にとっては新たなビジネスチャンスにもなります。経営者にとってはとても楽しい、チャレンジングな時代だと思います。

――中堅・中小企業にもチャンスはありますか。

 社長自ら「IoT物語」をつくって、従業員にわかりやすく説明している企業があると聞きました。ビジネスを深く理解しているトップマネジメントが、IoTやビッグデータによって、ビジネスにどのようなインパクトがもたらされるのか伝えたり、従業員と語り合ったりすることは非常に有益です。

 デザインワークショップやハッカソン、アイデアソンなども多数開催されており、そこには企業の方もたくさん参加しています。早稲田大学の未来創造デザインプログラムも参加者の半分は社会人です。そうした機会に参加し、デザイン思考や新しいアイデア発想の手法を学び、会社に持ち帰って議論するものいいでしょう。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)