“創造的破壊”に直面したCEOには
大胆に決断する勇気が求められる
優先順位を区分するうえでポイントとなるのが、ムーア氏が『Zone to Win』でも示した4つの「Zone」(ゾーン)だ。下図のように、横軸の項目を「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」、縦軸の項目を「確かな収益を達成」と「投資を使用」とした四象限のマトリクス上に、右上から時計周りに「パフォーマンス」「生産性」「インキュベーション」「トランスフォーメーション」という4つのゾーンを配置する。
このうち、右上の「パフォーマンスゾーン」は既存のビジネスで実績を上げる営業機能、右下の「生産性ゾーン」は、その営業活動を支援する財務・人事・IT・法務・調達・カスタマーサービスなどの機能、左下の「インキュベーションゾーン」は新製品やサービスの研究・開発、新たなビジネスモデルの創造に取り組む“社内ベンチャー”などの機能だ。つまり、これらの3つゾーンは、既存企業に普通に備わっている機能を包括したものと言える。
それに対し、目新しいのは左上の「トランスフォーメーションゾーン」だろう。ムーア氏はこれを、“創造的破壊”の波に飲み込まれないように既存の製品やサービス、ビジネスモデルの範ちゅうを超えて“変革”(トランスフォーメーション)を促すための機能と位置付け、「自社のビジネスが“創造的破壊”にさらされたとき、CEOは『パフォーマンスゾーン』や『生産性ゾーン』のリソースを温存するのではなく、『トランスフォーメーションゾーン』に優先的に再配分することも十分に検討する必要がある」と提言した。
ただし、そこで問題となるのが収益への影響である。「パフォーマンスゾーン」や、その営業活動を支援する「生産性ゾーン」のリソースが「トランスフォーメーションゾーン」にシフトすれば、おのずと足元の業績は下がる。一方で、「トランスフォーメーションゾーン」の手掛ける新ビジネスが収益化するまでには、少なくとも2~3年の時間が必要だ。既存ビジネスの手を緩めることには、株主はもちろん、社員や取引先も激しく抵抗するであろう。
しかし「手をこまねいていると、結局は“創造的破壊”の波に飲み込まれ、『パフォーマンスゾーン』や『生産性ゾーン』が手掛ける既存ビジネスも立ち行かなくなる可能性もある。リソースの再配置はしないに越したことはないが、必要とあれば大胆に決断する勇気がCEOには求められている」とムーア氏は締めくくり、基調講演を終えた。