数学マーケティングとは何か

 ビジネス戦略の成否は確率によって決まり、その確率は、ある程度まで操作することができる。この確率思考の戦略論とも呼ばれる「数学マーケティング」によって、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の成功は成し遂げられた。これは紛れもない事実だが、数学マーケティングという考え方が誤解されているように思えてならない。その言葉の響きから、数字だけを偏重し、数式だけに依存すると考えられているのではないか。本稿では、その誤解を解き、数学マーケティングの本質とそれに基づく価格戦略、あわせて顧客の心理を数学によって読み解くことができるかという命題について明らかにしたい。

 数学マーケティングを狭義にとらえると「数字から読み解く消費者心理の抽出」という意味合いになる。しかし、私たちはもっと大きな抽象概念ととらえ、数式そのものではなく、考え方のロジックを指していると考えているのだ。数式によって担保された領域が明らかにしているのは「市場構造」である。市場構造とは、ある商品カテゴリーにおける消費者の意思、利害、行動が積み上がった、全体としての業界の仕組みのことだ。この市場構造の定義付けを数式でつまびらかに可視化することができるが、それをどのように使うかは、ロジックである。市場構造を理解したうえで意思決定を担保するのはロジックであり、数式はその強烈な担保の仕方の一つにすぎない。

 そもそも、意思決定を行う時には「総合的な判断」が欠かせない。視界を遮った状態で象のおなかを触っても、象と判断することは難しい。おなかだけではなく鼻、尻尾、耳など、いくつもの点に触れることで初めて象だとわかる。触れる点が多いほど、点と点の情報の組み合わせによって対象が明確な像を結ぶ。これが総合的な判断ということである。数式で担保された領域は、あくまでも局面にすぎない。