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戦略の最高責任者を置く企業が増えている
以前から進めていることが、企業戦略と相容れない。そこで修正が必要になる。だれかがしかるべき部門に出向き、その事実を指摘し、何らかの転換を図らなければならない。その人物はCEOかもしれない。あるいはCEOしかできないかもしれない。結局、それが伝統的なモデルであり、もっぱらビジョンも戦略プランニングも指示もトップ・ダウンで伝えられ、組織内の各レベルで実行に移される。
しかし、別の「Cレベル」(COOやCFOなど“chief”がつく執行役員)が戦略実行の重荷を背負っている企業もあるだろう。大手保険会社のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)のシニア・バイス・プレジデント、ブライアン・シュライバーのようなケースだ。
シュライバーは、2人のCEOの下で戦略担当の責任者を務めてきた。ハンクの愛称で知られる会長兼CEOのモーリス R. グリーンバーグ(2005年3月、不正会計によって解任)の在職中、シュライバーは戦略プランニング担当のシニア・バイス・プレジデントとして、決定した投資を実行し、経営陣が選んだ企業の買収に腐心していた。
新CEOのマーティン J. サリバンの時代になると、シュライバーの役割はさらに拡大した。同社の戦略立案プロセスを体系化すること、部門横断的な関係を構築してシナジーを生み出すこと、さらには企業戦略の達成に邁進している人たちのために、アカウンタビリティ(業績の説明責任)と透明性を向上させることなどである。
シュライバーは、戦略を立案し、これを実行していくには、優れたプロセスが不可欠であると同時に、迅速な判断を下せる能力が欠かせないと述べている。つまり、彼はみずからを、戦略イニシアティブが会社の掲げる基準と目標から逸れていないかどうか、組織の各レベルで見極める番人と見なしているのだ。
シュライバーの経験になるほどと思われるかもしれないが、いまやけっして珍しいものではない。我々の調査と大企業のリーダーたちをお手伝いしている経験から、CEOたちは戦略の実行を指揮する手綱を、正式なかたちでさまざまな執行役員たちに手渡しつつあること、そしてなかでも、「CSO」(chief strategy officer)、すなわち「最高戦略責任者」という肩書きが与えられた者に指揮権を委ねるケースが増えていることが確認された。
実際ここ数年、CSOの就任が急増している。リーダーたちにインタビューしたところ、多くの業界でこの役職が普及しつつあり、また世界中の多国籍企業ではすでにCSOが活躍している状況が明らかになった。
経営陣にCSO職を設ける、もしくはこれを検討しているのには、いくつかの理由がある。事業環境の変化、すなわち組織構造の複雑化、加速するグローバリゼーション、新たな規制、イノベーションの生みの苦しみをはじめ、戦略の実行と同じくらい重要な分野ですら、CEOがそのすべてを掌握することはもはや不可能に近い。