我々は、従業員を3つのタイプに分類した。
「スピード重視の働き手」は、仕事を終えるのは早いが質では劣るタイプだ。「質重視の働き手」は、仕事の質は高いが、時間がかかるタイプ。「平均的な働き手」は、スピードと質のどちらの面でも平均的なタイプである。我々の研究対象では、25%がスピード重視の働き手、もう25%が質重視の働き手、残る50%が平均的な働き手であった。
●得意な面が異なる従業員どうしを組ませる
従業員がグループごとにまとまって座っていたサンプル企業では、スピード重視の働き手と質重視の働き手が隣り合って座るのが、最高の座席配置であることがわかった。それぞれが相手の仕事ぶりの改善に役立つからだ。双方の働き手の弱い面に、互いに波及効果が見られたのである。
質重視の働き手は、スピード重視の働き手の仕事の速さに追いつこうとし、スピード重視の働き手は、仕事の質を高めようと努力した。スピード重視の働き手が質重視の働き手の隣の席についた場合(そして平均的な働き手同士が1つのグループを形成した場合)には、生産性(仕事のスピード)は13%向上し、有効性(未解決のタスクの少なさ)が17%向上していた。
一方、スピード重視の働き手2人が隣り合って座った場合には、生産性の著しい向上は見られなかった。また、質重視の働き手2人が隣り合って座った場合にも、仕事の質は向上しなかった。なお、平均的な働き手はどちらの面も平均的なので、どちらからの波及効果も小さかった。
このテクノロジー企業に関する興味深い所見として、どちらかの面(質またはスピード)で秀でている従業員は、得意な面に関する波及効果には敏感に反応しない傾向にあり、一方で、その面が弱い働き手は敏感に反応した。それゆえ、仕事の速い従業員を仕事の遅い従業員の隣にすると、仕事の速い従業員をスローダウンさせるのではなく、仕事の遅い従業員をスピードアップさせる傾向にあった。
●有害な働き手を遠ざける
我々のサンプル企業における「有害な働き手」とは、有害な行為に関連する理由で退社させられることになった従業員だ。これには、不正行為や職場での暴力、麻薬またはアルコールへの依存、セクシュアル・ハラスメント、文書偽造、詐欺、その他の会社方針の侵害が含まれた。有害な働き手は、隣人のパフォーマンスにマイナスの影響を及ぼす。
有害な従業員同士が近くに座っていた場合には、そのうちの1人が退社させられる確率が27%高まった。だが、生産性や質の波及効果とは対照的に、どのタイプの働き手も、有害な波及効果の影響を受けやすいようであった。また、有害な働き手が有害でない働き手の隣に座った場合には、有害な働き手の影響力が勝り、有害でない働き手は有害になる可能性が高まった。
このことから示唆されるように、従業員が職場環境についてどのように感じているかを理解するために、企業は従業員エンゲージメント調査に細心の注意を払うべきだ。この調査結果をもとに早い段階で管理職と人事部が介入すれば、有害な状況を根絶できるだろう。
●これらの波及効果はなぜもたらされたか
これらの波及効果はほぼ即座に生じるが、2ヵ月以内に消えることもわかった(パフォーマンスは、対象とする尺度に応じて、日次もしくは週次で測定し、月平均を算出した)。ということは、この波及効果は、パフォーマンスの高い従業員の近くに座っていることからくるインスピレーション、あるいはピアプレッシャーと組み合わさってもたらされたことを示唆している。もちろん、どの要因が真に効果をもたらしたかまでは特定できなかった。
この研究から我々は、働き手の空間をよりよく管理することで個人やチームのパフォーマンスを高められる、と確信するに至った。そのためにはまず、従業員のパフォーマンスに着目し、波及効果がどの面に生じてほしいかを見極める必要がある。我々の試算によれば、従業員数2000人規模の組織では、戦略的な座席配置による生産性の向上が、100万ドルの年間利益をもたらす可能性がある。
もちろん、組織が異なれば仕事の内容も異なり、波及効果の種類も異なる。我々が研究対象とした企業にとっての最適の座席配置が、すべての企業にベストではないだろう。だが少なくとも、オフィスの設計が、パフォーマンスにいかに影響を及ぼしうるかを示している。
組織は、どのような波及効果が存在するかをつきとめたら、それを利用してよりよい成果を上げる組織空間を計画するとよい。そうすれば、比較的安価に管理できる物理的な空間が、重要なビジネスリソースとなりうる。
HBR.ORG原文:Want to Be More Productive? Sit Next to Someone Who Is, February 14, 2017.
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ジェイソン・コルセロ(Jason Corsello)
コーナーストーン・オンデマンド社ストラテジー・アンド・コーポレート・ディベロップメントのシニア・バイス・プレジデント。コーナーストーン・オンデマンドは、組織における採用、人材育成、および人材管理を支援する、クラウドベース人材管理ソフトウェアのグローバルリーダーである。コルセロは、企業の製品イノベーション、市場開拓戦略、新規企業イニシアチブの促進を担当。
ディラン・マイナー(Dylan Minor)
ケロッグ経営大学院(ノースウェスタン大学)のアシスタント・プロフェッサー。カリフォルニア大学バークレー校で経営管理の博士号を取得。組織と社会・倫理問題との結びつきについて研究している。