多数の大企業を一度に糾合する
新しい形のパートナーシップ

 2015年10月のある朝、ベルリンのテンペルホーフ地区にある旧ビール工場。そこに集まった人たちは、使われていない機械に囲まれながら、イノベーションに対する新たなアプローチでそれぞれの業界を変革したいと考えていた。石油用のドラム缶を並べてつくった急ごしらえのテーブルの周りに肩を寄せるように立っているのは、エアバス、DHL、キャタピラー、シスコシステムズという、いずれも大企業でイノベーションの異端児と目される経営幹部である。

 カリフォルニア州に本拠を置くネットワーク関連企業、シスコが主催したこの会合は、それまでのプロセスの集大成ともいえる場だった。サプライチェーンのデジタル化で生じる喫緊の課題に取り組むべく、彼らは慎重に事を進めてきた。目標は、共通の問題に対する画期的なソリューションを目指して、今後半年以内にパートナーシップを立ち上げることだ。

 デジタル化が進み、互いのつながりが増す世界にあって、既存企業のリーダーはたびたび、自社だけでは(あるいは自分たちの業界だけでは)つかめないビジネスチャンスが目の前にあるのを知る。ベルリンでの「リビングラボ」(シスコがこうした取り組みにつけた名称)は、そのようなビジネスチャンスに対応するためのユニークなモデルである。スタートアップ企業にイノベーションを起こしてもらい、そこを買収するという手法ではなく、この新しいプロセス(「エコシステムイノベーション」と呼ぼう)に参加する企業は、力を合わせて新たなコンセプトを考え出し、それをビジネスにする。