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机上の戦略は現実では無視される
戦略はどのようにかたちづくられるのか──。本稿の主筆であるバウワーがみずから見聞した某大企業本社の話をご紹介したい。
同社のコントローラー(管理および企画担当責任者)は、会社の中核を担う事業部から最近提出されたプロジェクトの企画趣意書を手に、首をかしげた。大型の煙突が1本注文されている。煙突1本とはどうにも解せない。さっそく飛行機を手配して現場に赴いてみると、プラントの工事はほぼ完了しており、あとは煙突だけだった。
この新プラントを建設するに当たって、事業部長たちは、本社の承認がいらない業務命令によって推進していたのだ。しかし本社の調査をかいくぐろうにも、煙突だけはさすがに業務命令では処理できなかったのである。
同事業部では早急に新規事業に乗り出したかったのだが、本社の承認を待っていてはタイミングを逸してしまうため、あえて認可を仰ぐことはしなかった。しかし、新プラントの建設はどうしても不可欠との判断から、抜け道を見つけて建設を進め、あとは煙突だけが残ったというわけである。
最終的には、新プラントの必要性についても、またそのタイミングについても、現場の判断が追認され、くだんの煙突も承認された。それにしても、会社の舵は、いったいだれが握っているのだろうか。コントローラーはまた首をかしげた。
我々は長年にわたって、この問いへの答えを探し求めてきた。この事業部のケースに限って申し上げれば、事業部長たちに主導権があったようだが、通常はもっと複雑である。
現実世界における戦略の定義、すなわち、会社がどのビジネスチャンスを追求し、どれを見送るかの判断は、経営陣、事業部長、ライン・マネジャーがそれぞれ担っており、さらに顧客や資本市場なども、その判断を左右する。我々のこれまでの研究でも、現実の事業というものは、本社が描いた戦略などおかまいなしに展開されることが再三にわたって明らかになっている。
戦略とはむしろ、企業規模やその国際性とは無関係に、さまざまなレベルのマネジャーたちが、資源配分の方針、各プロジェクト、人材、設備等に関与するたびに、その姿が変わっていくものなのだ。ならば、机上の企業戦略に気を取られるよりも、経営資源の有効活用を考えるべきではないか。