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カストロとの交渉で学んだこと
私の仕事は、人を動かすストーリーをつくることである。映画制作者としての私は、ストーリーがどのように観客の心の琴線に触れるのか、いつも理解しておかなければならない。たちまち人を引きつけて大ヒットするストーリーもあれば、情けないほど受けないものもある。
私は幸いにも、世界で最も才能豊かな語り手、そう一流と呼ばれるディレクターや小説家、脚本家、俳優、その他のプロデューサーたちと一緒に仕事をする機会に恵まれ、彼ら彼女らからそのストーリー・メーキングの秘訣を少しずつ探り出すことができた。
誤解しないでいただきたいが、それでも映画ビジネスは常に水物であり、私自身、失敗作をつくったこともある。しかしそのような経験から、少なくともストーリーに欠かせない要素とか、その力の引き出し方について、はっきりとした感触をつかむことができた。
ストーリーテリングの能力は、経営者であり起業家でもある私にとって欠かせないものである。年月を重ねるにつれて、自分自身や会社についてはっきりと言葉で表現する能力は、事業経営のほぼあらゆる局面において不可欠であることがわかってきた。
この能力は、どのような仕事や職位でも有効である。すご腕といわれる営業マンは、製品を主人公にした物語を語る術を心得ている。賢いリーダーは、短期的には犠牲を払うことになるが、最終的には長期的な成功が導かれると諭して、チームの努力を結集させる。また優れたCEOは、会社の使命について心を揺さぶる話をして、投資家やパートナーを引きつけたり、高いゴールを設定して社員たちを奮起させたりする。
うまいストーリーの場合、一見絶望的な状況でも、思いもよらず好転することもある。
1980年代中頃、私はポリグラムで『オーシャンクエスト』というテレビ・シリーズを制作していた。その一環として、南極、メキシコ西部のバハカリフォルニアからミクロネシアと、世界各地の海にスキンダイビングのエキスパートと研究者のグループを送り出し、彼ら彼女らの冒険を撮影した。出演者の一人に元ミス・ユニバースのショーン・ウェザリーがいたが、彼女は駆け出しの女優で、地元の観客という役を演じていた。
このシリーズの成功に欠かせない一コマとして計画されていたのは、ハバナ湾の立ち入り禁止区域を探検するシーンだった。ここは16世紀以降、ガレオン船[注1]や海賊船が宝物を運び出した場所であった。