技術革新は人間の能力を補完し、可能性を広げる

――ITの進展は、テレワーク導入にかかる技術的な問題をクリアしました。活用にあたっては、先行する欧米企業に学ぶべきですか。

 自宅や外出先にいても、職場で机を並べているのと同じように、呼び出したり、議論をしたりすることができるツールもあり、それらを活用する企業も増えています。ところが米国では、ヤフーやIBMなど、以前から在宅勤務を推進してきた大手企業が同制度を廃止する動きも見られます。

 「チームワークや一体感、コミュニケーションの不足」「社員の仕事ぶりが把握できないことによる仕事の質とスピードの低下」、そして注目すべきは「新しいアイデアやイノベーションは社員同士が顔を合わせることによって生まれる」ことが、テレワークを止める理由になっていることです。

 「大部屋型」ではなく、「個室型」の職場が多い欧米企業では、テレワークもその延長でむしろ導入しやすかったのですが、グーグルなどシリコンバレーの企業が、日本的な「大部屋型」のエッセンスを取り込むことでコミュニケーションやコーディネーションを高め、さらにイノベーションにつなげようとする傾向が強くなってきたことの現れと分析しています。そうしたコンバージェンスは、「隣の芝生が青く見える」現象とも考えられます。何が正解かわからない時代ですし、日本企業も欧米企業もお互いにないところを探して、それに近づいている部分もあるので、欧米流をそのまま真似するのではなく、自社に合った手法を一つひとつ吟味していく必要があるでしょう。

――デジタル化が加速する時代に私たちが目指すべき働き方とはどんなものでしょう。

 AIをはじめとした新たな技術は、人間の仕事を代替するのではなく、人間の能力を補完し、新たな可能性を広げるものだと考えます。たとえば、米国で銀行のATMが普及していく過程で、当初、窓口係は大きく減るとみられていたのですが、30年間でむしろ増加しました。もちろん、現金を扱うような定型業務は縮小したのですが、ITの発展で個々の顧客と密接な関係をつくることが可能になり、クレジットカードやローン、投資など、追加的なサービスを提供する新たな業務が誕生したからです。

 AIと人が組み合わさることで、もっとすごいことができるようになる。そのためには、技術革新で代替されるのではなく、補完的になるようなスキルを育成していくことが大事です。機械にはできないが、新たな機械化を伴うと価値が高まるスキルです。人間の持つ芸術性や身体能力、思いやり、おもてなしなどにそのヒントがありそうです。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)