※本稿は「顧客の『選択』を『習慣』に変える」の内容を基に構成されています。

顧客は意識的な選択をしている

HBR(以下色文字):レゴに対する人々のロイヤルティは、習慣によって育まれるものだとお考えですか。

クヌッドストープ(以下略):習慣以上のものだと思います。私がCEOになった13年前、レゴ・グループは危機状態にあって、「どうか潰れないでください」という手紙をたくさんいただきました。「レゴがなくなると、世の中がつまらない場所になってしまいます」と。

 あるブランドに情緒的なつながりを持っていると、それを手に入れようと努力するでしょう。私に言わせれば、顧客は意識的な選択をしているわけです。無意識の選択であればiPhone7を買うために何日も並ばないはずです。

 もちろん、あらゆる商品が顧客との間に情緒的な結び付きをつくれるわけではないでしょう。航空会社やホテルは、顧客に自社サービスの選択を強く促すロイヤルティプログラムを用意しています。これは、どうしてもそこを選びたいと思うような情緒的な結び付きを、私たちが各社のサービスに感じることがないからです。多くの人々が自分のことを「『ホリディ・イン』マニアだ」と考える図は想像しにくいのです。

 一方、洗濯用洗剤「タイド」のような実用的な製品をマーケティングしようとすると、どうしても顧客の潜在意識に訴求する必要があります。なぜなら、どの洗剤を買うかという選択はたいてい無意識になされるからです。

 けれども、遊びや子どもや学びに関わる当社のような製品は、単に無難な、あるいは楽な選択に留まるものではないのかもしれません。この製品はどのような価値があるのか、つまり顧客自身にとってどういう意味があるのかを、明示的に訴える必要があるようなのです。

 むろん、子どもたちは自分を「レゴマニア」だと考えて振る舞うことはありません──ただ遊ぶだけですから。でも彼らがレゴマニアとして育ち、自分の子どもを持つことだってありうるでしょう。子どもの時にいつもレゴで遊んでいた親を説得するほうが、ずっと楽です。私たちが新興国のマーケティングに力を入れているのも、たいていそこでは第一世代ユーザーに話しかけていることになるからです。

 この情緒的なつながりに、習慣が果たす役割はあるでしょうか。

 もちろんあります。習慣は、この結び付きを構築する仕組みにほかならないからです。人々は同じことを何度も行って習慣化していきます。しかし、習慣はいずれ価値に変わります。「毎晩寝る前には歯を磨きなさい」と子どもに教えることは、最初のうちは子どもへの強制、一種のしつけにすぎません。しかし時間が経つにつれ、子どもたちは歯を磨かないで寝ようとする、とどこか落ち着かない気分になってきます。そしてついには、歯を磨くことが正しい行為だと感じ始めるのです。

 自社のブランドを価値、つまりユーザーの生活の一部にできれば、本当に強力な競争優位を持つことになります。しかしその出発点は、自社ブランドを顧客の習慣に組み込む努力にあります。

 それは、レゴ・グループではどのように作用しているのですか。

 簡単な、決まった課題に何度も取り組んでもらい、レゴブロックで何かをつくる行為を習慣化してもらう必要があります。組み立てるものがだんだん複雑になってくると、人々は自分なりの決まったやり方や技法を身につけて、上達し始めます。けれども、もっと優れた、簡単な方法を誰かから見せてもらうと、それまでのルーチン(決まったやり方)を変えられるだけの柔軟性があるものなのです。

 毎年世界中で何百もの「レゴ模型コンベンション」が開かれており、メーカーである私たちが思いもつかなかったような、ブロックの新しい使い方が紹介されています。ユーチューブをご覧になれば、驚くような作品群を見ることができます。いまここにおよそ20個のブロックでつくった作品がありますが、私でも誰でも、同じ20ブロックを使って異なる作品を何百万種類もつくれると思います。

 何かを組み立てることは、本当の意味で私たちの根本的なニーズです──私たちは誰でも自分だけのものをつくりたいものなのですから──そして、当社はそれをするためのプラットフォームを提供しているのです。

ルーチンワークを楽しいものに

 習慣を価値に変えるには、まず何から始めるべきだとお考えですか。

「基本は簡単で覚えやすい」という方針を崩さないこと。これに尽きると思います。最近、ある神経学者から聞いた話ですが、私たちの脳はRAM(ランダム・アクセス・メモリー)で25メガバイトに相当するそうです。これは1台のスマートフォンでわずか4枚の写真を処理する程度の処理速度だ、ということです。そして、その性能は年を取るほどに悪くなっていくのです。米航空宇宙局(NASA)が実施した最近の調査によると、人は25歳に達すると、5歳の時に持っていた創造力のわずか5%程度しか残っていないそうです。つまり、人の脳は簡単にオーバーフローしてしまうのです。

 私たちがこうした状況にどう対処しているかについて、具体的に説明しましょう。当社には、「レゴクリエーター3イン1」という、一つのキットで3つのモデルを組み立てるという商品ラインがあります。実際には、一つのキットからつくれるモデルの数は4つよりもはるかに多いのです。12年前であれば、一つのキットから12のモデルを提案していたはずです。けれども、あまりに多すぎると人々は実際には敬遠してしまうでしょう。そこで選択しやすいように、3つへと簡素化したのです。(レゴブロックを組み立てるという)決まった作業「ルーチンワーク」を楽しいものにする必要もあります。というのも遊びとは、子どもたちが新しいルーチンワークを学び、それに慣れるプロセスだからです。

 玩具ビジネスにとって重要なのは、目新しさ──これまでになかったワクワク感──を仕掛けることです。しかし、習慣と予測性は密接不可分です。この2つをどうバランスさせるのですか。

 おっしゃる通り、たしかに、子どもたちにとって目新しさは重要です。だからこそ、当社が毎年発売しているレゴセットの60%は新製品なのです。しかし、新製品が多いからといって親しみやすさを犠牲にしてはいません。「レゴ・システム・オブ・プレー」(LEGO System of Play=遊びのシステム)は世界で唯一の、遊びのためのプラットフォームです。どの新しいセットも12程度の新たなモデルを生み出せる可能性がありますが、すでに持っているモデルと組み合わせれば、つくることのできる構造物の種類はとてつもなく増えるはずです。恐ろしいほどのネットワーク効果を発揮するからです。

 ある子どもがすでにレゴセットを一つ持っていて、もう一つの製品を手に入れると、それは単にレゴがもう一つ増えた以上の価値をもたらします。つまり、その子の遊びのためのプラットフォームが大幅に拡大するのです。

 そしてそれは他の子どもたちに伝わります。レゴで遊ぶ習慣を身につけた子どもの数が増えれば増えるほど、もっと多くの子どもがほしがるようになります。そうすればレゴのコレクションをお互いに交換したり、組み合わせたりできるようになるからです。


鈴木立哉/訳
(HBR 2017年1-2月号より、DHBR 2018年3月号より)
"Habit Is How We Build the Connection"
(C)2016 Harvard Business School Publishing Corporation.

PHOTOGRAPHY: Lasse Bech Martinussen

ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ(Jørgen Vig Knudstorp)
レゴ・グループの社長兼CEO。

[聞き手]
デイビッド・チャンピオン(David Champion)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』シニアエディター