ビジネス・スクールはいまこそ、「学術的インパクト」の意味を考えるためにアプローチを広げるべきである。我々は、3つの主要な改革を提唱したい。
1つ目として、ビジネス・スクールは、研究のインパクトを学界の内部のみではなく、外部でも測るべきだ。たとえば、教授の論文が引用された回数を数えるときは、他の学者だけでなく、学生、経営実務家、政策立案者などによる引用・利用もカウントすべきである。さらに、こうした多くの関係者に広く読まれる記事(ニュース、定期刊行物、雑誌、ポッドキャスト等)に登場した回数にも着目すべきだ。これは、「学術的インパクトに対する多元的アプローチ」と呼ばれる。
2つ目として、学者は、ビジネスや社会にプラスの影響を及ぼす研究に重点を置くべきだ。一流の経営学者らによるグローバルで学際的なチームは、これを「責任ある研究」と呼ぶ。責任ある研究とは、株主の利害と企業の社会的・経済的成果とのバランスを取り、不可解で局所的な現象を理解するために厳格な研究手法を用い、倫理的な研究手法を何よりも重視しながら真理を追求すること、と説明されている。研究がこれらの目標をどの程度達成しているかを測る指標も、学術的インパクトを評価するもう1つの方法であろう。
3つ目として、あらゆる調査研究は、その事象を取り巻くエコシステムの一要素である。このことを踏まえて、すべての利害関係者(研究者、ビジネス・スクールの運営管理者、資金提供機関、政府、経営実務家、学術誌の編集者)は、責任ある研究を奨励してこれに報いるために、足並みを揃えて協働する義務がある。そして一丸となって、マネジメント研究の実施と普及における現在の限定的なアプローチを打開しなければならない。
具体的にはどうすればよいのだろうか。学術的インパクトの測定に関して、ビジネス・スクールは、以下の指標に着目することから始めるとよいだろう。
・著名なビジネスイベントに招待された回数
・実務家向けの刊行物に掲載された回数。大衆向けの書籍を含む
・幅広い層(学者もそうでない人も含む)が見たり読んだりしているメディア媒体で取り上げられること
・業界機関や政府機関からの問い合わせ
・実務家のイベントやコミュニティに対するプレゼンテーションの数
・米国立科学財団やカウフマン財団など、著名な出資団体から受けた外部資金の額
・地方議会や州議会、その他の政策立案者など、外部の利害関係者とのパートナーシップ
これらの指標はどれも、経営学者の研究が学界を超えてコミュニティの役に立ち、啓蒙していることを反映するものだ。
また、ビジネス・スクールは、教授のインパクトを測定するために、新たなテクノロジーに頼ることもできる。以下の指標を考慮に入れてもよいだろう。
・著作のデジタル図書館への収蔵
・学術論文のダウンロード数
・オンラインでのエンゲージメント。academia.eduやResearchGateのような論文サイトでの同業者との関わりと、ソーシャルメディアでの反応の両方
・ウィキペディアでの言及
・新聞、ブログ、ウェブサイトを含むニュース媒体における議論
研究がこれらの媒体で言及されている頻度については、「オルトメトリクス」と呼ばれるウェブベースのツールでデータを収集することもできる。
このような測定基準や指標で学者を評価することは、我々が提唱している2つ目の改革――より現実的で有用な研究の進展につながるはずだ。とりわけ、次の5つのメリットがあるだろう。
(1)エンゲージド・スカラーシップがさらに進む。
(2)経営学者だけでなく、マネジャー、従業員、消費者、政策立案者などを含む幅広い層が研究成果を利用するようになる。
(3)研究テーマや実験デザインに、上記の人々からのインプットが取り込まれる可能性が高まる。
(4)長期的調査などをはじめ、研究手法の多様性が広がる。
(5)より倫理的な研究慣行が促される。
残念ながら、我々の見解では、ビジネス・スクールが上記の指標を取り入れるよう業績管理制度を改める可能性は低い。伝統的な学術的インパクトの評価方法(「Aランク」誌への論文掲載数)から恩恵を受けてきた学者たちは、学問がもっと多元的に評価されることに抵抗を示すと思われる(実のところ、筆者らは2人とも、このような伝統的な褒賞制度から恩恵を得てきている。研究が一流の学術誌に幾度となく掲載されて、それぞれの大学で「特別教授」の地位に昇進し、教授職に任命されている)。
さらに、たとえ個々の学者、学部、あるいはビジネス・スクールが教授への新たな評価方法に価値を見出したとしても、他の機関が伝統的な評価方法を続けるのであれば、改革を遂げるのは困難だ。ある制度の下で昇進や終身在職権を受けた学者も、別のビジネス・ススクールではその評価が認められないかもしれない。
このため、学術的インパクトの評価方法の幅を一斉に広げるためには、学術コミュニティ全体――あるいは少なくとも、教職員の相互評価を普段から呼びかけている複数のビジネス・スクールや大学――の連携が必要とされるだろう。
これは苦しい戦いであると思われるが、経営科学が、妥当性と厳密性を有する科学として生き残り発展するためには、ビジネス・スクールによる主体的な取り組みが重要だ。そして、その先頭に立っているビジネス・スクールがいくつか存在する。
一例として現在、ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスは、「ビジネス+インパクト」というイニシアチブを推進しており、実施された研究が、実際に具体的な社会的インパクトをもたらすよう万全を期している。これには明らかに、次のような多くのメリットがある。
・学者は、実務家にほとんど読まれない一流学術誌への発表に終始せず、他の方法でも自分の意見を広めるようになる。
・倫理的に疑わしい研究行為(最も望ましい結果のみを発表し、有意でない結果を隠すなど)に携わる誘因が抑えられる。
・おそらく最も重要なこととして、経営学者の研究や著作への関心が高まり、その正当性が認識される。
アクションを起こさなかったことのツケは、我々にも最近、授業をしている際に回ってきた。数年前に実施した研究で得られた知見のいくつかを説明したところ、MBA履修生の1人がこう尋ねたのだ。「この内容について、私がいままで聞いたことがないのはなぜでしょうか。私の過去数年のキャリアの中で、本当に何度も役に立ったはずなのに。この知見はどこに隠されていたのでしょう?」
我々はただ、次のように述べて、この学生を慰めることしかできなかった。「こういう知見をもっと広く世界に紹介するよう、我々みんなが取り組んでいます。まだ実現できていません。でも、やらなくてはなりません」
HBR.ORG原文:It’s Time to Make Business School Research More Relevant, July 19, 2018.
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デブラ L. シャピロ(Debra L. Shapiro)
メリーランド大学スミス・スクール・オブ・ビジネスのクラリス・スミス記念経営学講座教授。以前は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のウィラード J. グラハム記念特別教授。
ブラッドリー・カークマン(Bradley Kirkman)
ノースカロライナ州立大学プール経営学部H. ヒュー・シェルトン陸軍大将記念リーダーシップ講座の特別教授。経営学部長も務める。