ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第85回は、元NETFLIX(ネットフリックス)最高人事責任者のパティ・マッコードによる『NETFLIXの最強人事戦略』を紹介する。
ネットフリックスの文化の柱は「正直」であること
理想のチームをどうすればつくれるのか。ホラクラシー型組織、アジャイル型組織、ティール組織……この数年だけでもいくつかのキーワードを耳にするようになったが、そこに共通するのは、環境変化が激しい不確実な時代において、どうすれば持続的成長を実現でき、勝ち続ける組織になれるのかという問題意識ではないか。『NETFLIXの最強人事戦略』は、この問いに1つの答えを導き出そうとする作品である。
本書は、NETFLIX(ネットフリックス)の「カルチャーデック」を元に、同社の経営に創業期から携わり、その特徴的な人材管理制度を構築した立役者である、パティ・マッコードによって書かれている。ネットフリックスの人材管理制度は注目を浴びる機会が多く、たとえば、有給制度を廃止して従業員の自由裁量にしたことは大きな話題を呼んだ(参照:「ネットフリックスの『無制限休暇』は信頼関係の産物である」)。
原著と訳書のサブタイトルにもあるように、ネットフリックスがそうした施策を実施する根底には「自由と責任の文化」があるという。そして、「ネットフリックス文化の柱の1つが『徹底的に正直であれ』だ」とマッコードは語る。たしかに本書を通じて、他人に嘘をつかないことはもちろん、従業員が自分の考えや想いに嘘をつくことがないよう、役職や立場に囚われないオープンかつフラットな環境づくりに余念がない様子を感じ取ることができる。
ただし、自分にも他人にも正直であれと徹底するということは、どんな提案でも無批判で受け入れ合う、ぬるま湯の組織をつくることではない。同社が「自由」に加えて「責任」を強調するように、お互いが納得するまで正直な議論を交わした後は、そこで合意した内容を必ず行動に移すこと、それに成果が伴わないときは解雇を余儀なくされることが要求される、きわめて厳しい組織である。
「ビジネスリーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチームをつくることである。それだけ」。マッコードはこう断言する。実際、現状のメンバーの中でその達成に貢献できていない人物がいると感じたら、長年苦楽をともにした仲間にも容赦なく退場を告げている。これもリーダーが実践すべき正直さなのであろう。これは一方的なものではなく、マッコード自身も同社の方針に則って解雇されている事実に目を向ければ、同社が掲げる文化が単なる理想でなく、現実の戦略として妥協なく機能していることが伺える。
マッコード自身も認めるように、ネットフリックスのように抜本的な改革を実施できる企業ばかりではないだろう。伝統企業であるほど、その変革は難しい。だが、そうであったとしても、現代の競争環境でトップ集団に位置する彼らの取り組みから学ぶべきことはとても多く、目を通すだけでも価値がある。