-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
3つのグローバル戦略を統合するフレームワーク
グローバル戦略において、ビジネス・リーダーも研究者も当然の前提として考えていることが2つある。
第1は、「規模の経済」と「ローカル条件への適応」のバランスを図ることが中心課題であること。第2は、規模の経済に重点を置いて、オペレーションを世界的に展開すればするほど、企業戦略のグローバル性が高まるということだ。
しかし、この2つを当然視していることにはいささか問題がある。グローバル戦略の主たる目的は、国家間、文化間などに存在する差異を管理することにある。このような境界領域は、地理的なものもあれば、そうではないものもある。標準化戦略も現地化戦略も、要するに差異を管理するという課題への対応策と考えてよい。つまり、両者ともまさしくグローバル戦略の一種なのだ。
しかも、グローバル戦略において、規模の経済と現地適応のバランスが最大の課題であると考えていると、境界を超えて統合を図るという課題、すなわち「差異を利用する」ことが見落とされてしまう。
さまざまな市場の境界領域に生じる差異を、単に調整や解消の対象と見なすのではなく、うまく利用して価値創造につなげている企業が存在している。その結果、バリューチェーンが複数の国にまたがるといった状況が次第に増えつつある。
IBMのCEO、サミュエル・パルミサーノが最近『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せた論文によると、2000年から2003年までの間だけで、外資が中国で建設した生産設備の数は約6万件に達するという。
またITサービス貿易は、サービス貿易全体に無視できない影響を及ぼすようになっている。たとえば2005年、ITサービスやビジネスプロセスのオフショアリングの半数はインドが受託している。
本稿では、前述したさまざまな問題を回避するために、グローバル戦略を統合する新たなフレームワークを提示する。筆者はこれを「トリプルAトライアングル」と名づけた。3種類のグローバル戦略の頭文字である3つの「A」にちなんだ名前である。
最初のAは「適応」(adaptation)である。これは、各国のローカル市場への取り組みを強化することで売上高と市場シェアを増やす戦略である。極端な例を一つ挙げれば、国ごとにサプライチェーンを構成する業務すべてを処理する現地法人を設置するようなやり方がそれに当たる。国外市場に進出する際、多くの企業がこの戦略を採用している。