●詐欺師だと思ってしまうのは、ごく普通のことだと認識させる
メンティが、自分を詐欺師と称し、不安感を告白したら、肩をすくめ、温かい笑顔で次のような言葉をかけよう。「あなたの周りにいる70%の人も同じです。みんなの仲間入りだね!」
時折詐欺師のように感じることは、極めて普通のことである。多数のノーベル賞受賞者やフェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ、俳優のトム・ハンクスやティナ・フェイ、テニス界の女王セリーナ・ウィリアムズ、そしてもちろん、本記事の筆者である我々も、れっきとした「詐欺師クラブ」のメンバーである。
すべてを知っている人間など存在しないと、メンティに言い聞かせよう。詐欺師であるという思いに悩まされない人が、抜群に頭がよく有能なわけではない、と伝えるのである。そういう人たちはただ単に、本物になるまでフリをするのが上手なだけである。
特に女性にメンタリングする際には、男性たちはその場しのぎの演技をすることがさほど苦痛ではないが、だからといって彼らがより多くを知っているわけではない、と言い聞かせるとよいだろう。
●ネガティブ・トークには証拠をもって反論する
インポスター症候群で苦しんでいるメンティはしばしば、自分の能力やパフォーマンスのすべてを否定するような評価をみずからに下す。話を聞くうえで、自分のすべてを卑下する言葉には注意を向ける必要がある。たとえば「私は馬鹿だ!」「プレゼンは大失敗だった!」「私にはここで働く資格はない!」といった言い回しだ。
そのようなときは、データに基づき、具体性を保ち、証拠とメンティの発言の不一致を指摘するよう努めよう。メンティらのプロとしての能力と長所がいかに進歩してきたかに焦点を当て、次のように反論してみよう。
「あなたが馬鹿? それはいったいどういう意味ですか。あなたが馬鹿なら、私たちはみんな困った状況に置かれているはずですよ!」「あなたのプレゼンが『大失敗』だったとは、誰からも聞いていません。次回改善したい点がいくつかあるということですか」「ここで働く資格がない? ということは、あなたへ仕事のオファーをしたとても聡明な経営陣が無能だということですか」
あるいは、「ちょっと待ってください。少し混乱しています。あなたは○○のような素晴らしい成果を上げたようですが、それでも自分がここで働く資格がないということですか」
●一に肯定、二に肯定、何が何でも肯定しよう
優れたメンターは、自分を詐欺師だと感じている人の不安を察知すると、肯定と激励で反論する。賢いメンターは、ユーモアと気品を示しつつ、メンティの力を信じていることを伝え、当人がその場にふさわしい存在であり、有能な人材であると気づけるよう尽力する。メンティの進歩やマイルストーンの達成などをレビューする、よい機会にもなるだろう。
肯定には2つの側面があることを覚えていてほしい。第1に、メンティを一人の人間として肯定し、内在する価値を認め、無条件にありのままを受け入れることだ。第2に、プロフェッショナルとして肯定し、これまで達成したことに目を向け、称賛することである。
●ステレオタイプの脅威を意識的に中和する
白人男性が圧倒的に多い環境で働く女性や、人種的マイノリティーにメンタリングを行うときは、彼らが置かれている環境に対する認識を促すことが肝心だ。職場で圧倒的な少数派である場合、自分を詐欺師のように「感じる」ばかりか、いくら自信があり、能力があっても、詐欺師のように感じることを「強いられて」しまう。
重要な仕事の出来不出来は、性別や人種とはまったく関係がないという認識をメンティに持ってもらい、仕事において高い自己効力感(self-efficacy)の構築を後押しすることで、ステレオタイプの脅威からくるパフォーマンスへの不安を緩和できることが、研究で明らかとなっている。
たとえば、次のような言葉が有効だろう。「あなたが手を挙げれば、女性として初のベンチャーキャピタルのリーダーになることができますよ。ベンチャーキャピタルの世界で、女性は男性と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に優れたリーダーになれることに気づいてくれると嬉しいです。あなたにはその力があるのです!」
●メンター自身の詐欺師体験を語る
あなたもほとんどの人と同じく、人生やキャリアのなかで、自分を詐欺師のように感じたことがあるだろう。そうであるならば、メンティとその体験を共有しよう。詐欺師だという感覚に苦しむ相手にとって、尊敬するメンターやロールモデルでさえ、自分と同じように詐欺師の不安感という魔物と格闘した経験があり(ことによると、いまもなお闘い続け)、それに負けずに前進を続けたという発見ほど、勇気づけられるものはない。
●成功したのはメンターのおかげではないと伝えよう
詐欺師を自認する人は、自分のプロとしての成功の要因は、運や過度な準備、またはメンターのおかげと考えがちであることに注意しよう。女性は特に、自分の成功を、運やチームメンバーのおかげだと考える傾向が強く、優れた成果を上げても、自分の才能や努力を過小評価して、メンターのおかげだと考えやすい。
インポスター症候群に悩む人が、自分の成功はメンターであるあなたのおかげだと言ってきたら、感謝を述べたあとで、成功の大きな要因は当人にあることをはっきりと伝え、その理由を説明しよう。
優れたメンターを目指すなら、あなたの指導するメンティが、一度や二度は自己疑念やインポスター体験に悩まされるという事実を胸に刻むことから始めよう。根気強く、温かい目で肯定し続けることで、メンティがあなたの目を通して、自分自身の真価を認識できるようサポートしていくといい。
HBR.ORG原文:Mentoring Someone with Imposter Syndrome, February 22, 2019.
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