島﨑 我々は発電事業をコアビジネスの一つとして、世界21カ国・70カ所で電力を供給しています。そのうち、現時点で25%は石炭火力です。これについては多くの議論を重ねてきました。発電所が設置されている当該地域の多くは石炭産出国で、安定的かつ低廉な電力を供給し、雇用も創出しています。そうしたケースで石炭火力を止めていいのかという議論がある一方で、そうではないだろうという意見もありました。結果的に、電力部門自身が率先して石炭火力発電所の新規開発から撤退することを決めました。経営トップから指示があったわけではありません。

 もちろん、稼働中の発電所をいきなり止めるわけにはいきませんから、徐々に減らしていき、代わりに再生可能エネルギーの保有割合を現状の1割から2割に引き上げる施策を進めています。サステナビリティの観点からポートフォリオを見直した1つの事例です。

日置 稼いでいる事業から撤退することは企業にとって難しい判断だと思います。それに挑むには、組織全体で共有する価値観が必要になります。米系企業では社会課題への取り組みをいかに競争力につなげているのか、スリーエム ジャパン(3M)の昆さん、いかがでしょうか。

 3Mが一般的な日本企業と最も大きく違うのは中期経営計画の立て方です。我々は毎年、中計を立て直します。そう言うと、「毎年あの作業をやり直すのか」と言われますが、じつは中計は方向性を探すためのものなのです。

 毎回、中計を立てる前提として、世界のメガトレンドがどこにあるのかを設定します。グローバルはもちろん、国別でも決めます。グローバルで考えたときに、一番大きなイシューとして出てくるのは貧困ですが、日本では貧困よりもむしろ高齢化の問題が大きいでしょう。

スリーエム ジャパン
代表取締役 副社長執行役員
昆 政彦氏

 そうしたメガトレンドを捉えたうえで、中期の戦略を立てていくのですが、戦略の中身というのは、当社が持っている技術をどうやってメガトレンドに当てはめていくか。その議論にかなりの時間を費やしています。

 メガトレンドを捉えた中で議論を進めていくと、自然と社会課題につながっていき、技術から最終的には製品に結びついていきます。

 製品については、売り上げではなく利益を重視しています。社会に対してバリューを出していると利益率は上がります。一方、利益率が下がると、我々が提供している価値が低下したとみなします。利益率を追求することで、経済価値と社会価値をつなげています。