SDGsを組織に浸透させるために
外部評価も積極的に取り入れる
2つ目のテーマは、「SDGs時代において経営モデルはどう変革すべきか」。サステナビリティに関する歴史的な潮流を踏まえ、日本企業にどのような経営モデルの変革が求められているのか、議論が続いた。
日置 続いて、SDGsを企業活動の中にいかに埋め込むか、経営モデルの変革について議論したいと思います。
企業の方々と話をすると、SDGsや社会課題の解決は投資家の要請であり、各省庁からガイドラインも出されているので、経営層には認識されているが、実際の現場はあまり変わっていないという悩みがある一方で、SDGsについて経営陣にもっと活発に議論してもらうにはどうすればいいのかという課題を持っているケースもあります。
SDGsの議論を組織に浸透させ、経営のルーティンとして取り組むには何が必要なのでしょうか。三菱ケミカルホールディングスは2011年から「KAITEKI経営」を標榜し、組織として実践してきました。SDGsやESGが広く取り上げられる以前からのことです。最初の頃は経営陣にも従業員にも、戸惑いがあったのではないですか。
越智 KAITEKI経営を始めるときに、事業部ごとに何ができるのかをすべて洗い出しました。二酸化炭素の削減や資源の有効利用、クオリティ・オブ・ライフ、従業員の満足度など、すべて拾い上げて、数値化し目標を決めたのです。
目標達成に向けて取り組むのだということを経営者として一生懸命説明しましたが、当初は投資家に認めてもらえなかったこともあります。ただ、事業部ごとに目標を設定したので、それが達成されてくると、従業員も経営陣も少しずつ達成感、やりがいを感じるようになりました。
とはいえ、そのままでは企業の自己満足にすぎないので、じつは当初から日本経済新聞社の「NICES(ナイセス)」(CSR関連など非財務情報を含む総合企業ランキング)と、ダウ・ジョーンズの「サステナビリティ・インデックス」(世界の代表的な社会的責任投資指標)のスコアを上げることを外部評価として入れました。
そうなると、やったことに対して、きちんと報告書をつくらないといけないですし、IR(投資家向け広報活動)でも説明しないといけない。こうした取り組みを継続することで徐々に内部も外部も認めてくれるようになりました。
島﨑 私もダウ・ジョーンズや英FTSE社のサステナビリティ・インデックスの担当をしていますが、年々、質問内容のメッシュが細かくなり、ハードルが上がってきた実感を持っています。

執行役員 秘書部長 兼 広報部長
島﨑 豊氏
一方でCFOによるIRの場において、ROEなどの財務情報だけでなく、最近は非財務関連の質問が増えています。このような状況を鑑み、ESGを経営に組み込む検討のため、2018年4月に社長直轄のサステナビリティ推進委員会を立ち上げました。
代表取締役CFOを委員長に、経営企画担当の代表取締役を副委員長に置き、人権問題を所管する人事部、機関投資家やアナリストの窓口である財務部等から委員を招集。コーポレート部門だけでなく、営業部門の幹部も交えたメンバー構成としました。
石炭火力開発からの撤退を営業部門自身が決断したのは、この委員会での議論が大きかったと思います。
また、社内の人間だけだと議論が均質化する懸念もあるので、委員会には複数の社外役員にも加わっていただき、月2回開催しています。さらに事務局は委員会開催前後の予習・復習もありますので、この1年間は月6回のペース、トータルで約70回にわたり徹底して議論しました。
もう一つ大事なことは、現場を巻き込んでサステナビリティへの意識を高めることです。各地域の事業データを集めながら、最初は「ESGとは何か?」というところから始まり、徐々に意識が醸成されていき、現在の形にまとまりました。ただ、これはまだスタート地点にすぎないと思っています。
ここからどうやって国内外のグループ430社に浸透させていくかが大きな課題です。そのカギを握るのは人財です。
新規案件の検討時に、環境評価を行う仕組みは早くから導入し定着していますが、今後はこれにESG評価指標を加えることや、人事評価の中にESG要素を入れてはどうかといった議論も始めています。
いずれにせよ、環境や社会を意識する経営は経済価値とトレードオフではなく、必ず利益は後からついてくるというものだと確信しています。
藤井 両社の取り組みは、経営トップが意志をもって企業経営の「土台」にあたる部分まで含めて改革を進めている点で、多くの企業の見本になりうるものだと思います。ダウ・ジョーンズのサステナビリティ・インデックスの話がありましたが、大義を掲げて抜本的な組織改革に取り組む上では、経営トップのサポートと外部からの評価の両方が重要です。自社の取り組みの意義・価値を外部から気付かされて、内部の“熱狂度”が高まり組織変革が加速するということも多々あります。
よく言われるのは、日本企業はいい取り組みをたくさん行ってはいるが、それを説明したり、PRしたりするのが苦手だということ。これまでの取り組み、これからやろうとしていることを大義あるストーリーに落とし、勇気をもって意図的に発信していくこと、それによって外部・内部の共感と熱狂を生み出していくことが大切ではないでしょうか。
日置 昆さんにもう一つうかがいたいのは、3Mはイノベーティブなプロダクトを出していく中で社会課題を解決するとのことでしたが、そういった要素はルーティンのプロセスの中にどれだけ加味されているのですか。

パートナー
日置 圭介
昆 我々が最も重視しているのは、外部とのつながりです。エンジニアがどれだけお客様や社会と接点を持てるかがポイントです。
ハード面では、カスタマー・テクニカル・センター(CTC)をつくって、そこにお客様を招き、当社のエンジニアが直接対話します。それによって、エンジニアは社会の人々が何を求めているのか、肌で感じることができます。
一方、ソフト面では、我々は自主性を重んじる企業文化を持っています。エンジニアが自身でやりたい研究開発に勤務時間の15%を充てることができる「15%カルチャー」があり、この仕組みをうまく回すことで、社会的価値に対する感度の高い人材が、自主的にR&Dに取り組み、最終的な製品化につなげています。