次に来るトレンドを押さえるには
NGOと連携し情報収集する必要も

日置 筒井さんにうかがいます。NGOとうまく連携することで、企業の内部や経営のあり方に変化を与えることは可能ですか。

筒井 いくつか具体例を紹介します。たとえば、チリ産の養殖サーモンは日本が大きな顧客になっています。チリの養殖業はノルウェーの業者が技術移転を行うことで、成長を遂げたのですが、大量の養殖業者が乱立したことで、環境破壊が進んだ時期がありました。

 そこで、環境や生物に負荷をかけない養殖に転換を図ろうということで、WWFは養殖版海のエコラベル「ASC(水産養殖管理協議会)」の認証制度を適用しようと働きかけてきました。

 ここで問題となるのは、環境にダメージを与える従来の養殖と、認証を受けた養殖とではコストが違うということです。ASC認証のコストを低減するために、大手の流通業を巻き込んで、彼らに長期間、一定量のサーモンを買ってもらうというコミットメントを取りつけるべく、日本ではイオンにお願いしました。

 イオンにとっても、環境負荷の少ない養殖業者と協働できるうえに、品質のいい商品を安定した価格で店頭に並べられるメリットがあります。持続可能なコモディティを扱うことは、企業や消費者、社会にとって、三方よしの形になります。

 また、国内では沖縄のサンゴ礁の保全について、ある生命保険会社に支援していただいています。同社の経営者、CSR担当常務が毎年1回、必ず視察に訪れてくださるほか、その前後には社員のみなさんもやって来ます。

 環境をテーマに、社員と役員が胸襟を開いて議論したり、地元のコミュニティとの交流も図ったりしています。そうすると、生命保険という事業が社会にとってどのような使命を持っているのか、本質的な部分をみなさんで議論され、社員一人ひとりが果たすべき役割についても確認し合っているようです。

 一見、事業とはかけ離れた社会貢献活動が、経営者と社員の垣根を取り払って議論をするいい機会になっているのかなと思います。

藤井 いま、いろいろな企業がオープンイノベーションの名の下、ベンチャー企業との連携を深めています。それは、自社にない技術やビジネスモデル、考え方を吸収することを目的としたものですが、WWFのようなしっかりとしたNGOも、企業にとって有力なパートナーになると思います。

 WWFのような歴史と実績があるNGOは、非常に幅広い経験を持ち、政府に対するロビイングの力、社会課題に対する豊富な知見を有しています。これまで日本の中で、ソーシャルセクターとビジネスセクターが協働する機会はあまり多くありませんでしたが、SDGs経営に向かっていくときに、NGOの方々とオープンイノベーションという観点で連携を深めていくことは非常に有益だと思います。

モニター デロイト
ジャパンプラクティス リーダー
藤井 剛

日置 社会動向に対するインテリジェンス(情報収集)機能を高めるうえでも、NGOと協働する意味は大きそうですね。

藤井 その通りです。たとえば、海洋プラスチックや石炭火力の問題などは、ある時点から急に社会的関心が高まり、NGOや投資家から要求されて、企業の対応が後手に回るケースが少なくありません。

 ただ、その過程をよく観察してみると、特定の社会課題が企業経営に影響を及ぼすまでには、だいたい4つのステージを経ていることがわかります。

 最初に市民、NGOの関心がある地域で高まり、次に国際的NGOのアジェンダとなり、世界に広がっていきます。それがあるタイミングで資本市場や投資家の関心を集めるようになり、その結果、インパクトのある企業課題となります。

 ところが日本にいると、国際的NGOのアジェンダとなって世界的な注目が高まるというステージ2の状態をリアルタイムで把握することは難しいのが実情です。その点、普段からNGOと交流したり、協働したりする機会を持っていれば、社会課題における次のトレンドをかなり正確に把握できるはずです。サステナビリティや社会課題に関するインテリジェンス機能が十分でない企業は、NGOとの連携によって感度を上げることができると思います。

日置 情報収集も従来と違うやり方をしないと、継続的にサステナビリティについて検討することは難しくなっているのではないでしょうか。とりわけ、社会課題については足で稼ぐ必要のある定性的な情報が多いですから、いろいろな外部の人と交わることで生の情報を収集することが大事ですし、そこから得られる新たな気づきも多いと思います。

 パネリストのみなさん、本日はありがとうございました。