現代人の心の負担は増している

編集部(以下色文字):近年、「自分とは何か」を問われる機会が増えています。「自分探し」が流行した時期もありましたが、そこにはどんな背景があると考えられますか。

中島(以下略):今日において「自分」が問題になる背景には、内面に向かう宗教としてのプロテスタンティズムが近代の強力な原理となり、世界を覆い尽くしていった影響が大きいと考えています。近代的な内面を有した「個人」がまずあって、その人々が集まって社会を構成するという想像力ができ上がり、世界の多くの場所で、人間や社会に関する認識が再編されていきました。

 前近代にも自己への問いがなかったわけではありません。「汝自身を知れ」とは、ソクラテスの言葉としてよく知られています。中国においては、仏教を経た後になりますが、朱子学が「誠」という概念を手がかりに、嘘偽りのない透明な自分であることを目指しました。この方向は、陽明学になるとさらに強固になります。